「東京輪舞」月村了衛著
1976年、ロッキード事件が発覚し、前首相逮捕という異例の事態に陥っていたさなか、警視庁公安部にCIAから日本に潜伏中の元ロッキード社社員ヘンリー・ワイズの捜索依頼が舞い込む。公安部外事第1課の砂田修作は、日本に留学中のワイズの娘アンナに接近しワイズの確保を図るが、アンナと思われた娘は、実はKGBのスパイ、クラーラだった。
クラーラにはめられた砂田だが、この失敗を糧に、以後、東芝のCOCOM違反、ソ連の8月クーデター、オウム真理教事件、国松警察庁長官狙撃事件、金正男密入国事件といった昭和から平成にかけての大事件に関わっていく。そこで砂田が直面するのは、事件の本質から目をそらし、派閥の力学に翻弄され、ソ連崩壊以後の変化に対応できない公安部の衰退ぶりだった。
上層部からの圧力や仲間の裏切りにもめげず、単身独自の捜査を続けていく砂田と、事あるごとに砂田を陰で操りながらも手を差し伸べていくクラーラ。この2人を軸に、秘められた公安活動の暗部に光を当てるべく大胆な仮説を打ち出していく。
(小学館 1800円+税)