「ガルシア=マルケス『東欧』を行く」G・ガルシア=マルケス著 木村榮一訳
コロンビアのノーベル賞作家、ガブリエル・ガルシア=マルケスは、作家として世に出る以前、新聞社で働くジャーナリストだった。東西冷戦下にあった1950年代後半、30代初めのマルケスは、「鉄のカーテン」の向こう側を旅する貴重な機会を得て、ルポルタージュを書いた。それを一冊にまとめたのが本書。
壁ができる前の「支離滅裂なベルリン」を皮切りに、チェコスロバキア、ポーランド、ソビエト連邦、ハンガリーを歩き回った。客を迎えるために取り繕った姿ではなく、「東欧の国々の寝起きの姿」を見たいと考えていたマルケスは、ジャーナリストの観察眼と、小説家の感性を駆使して当時の東欧を活写、血の通った時代の証言を残した。
チェコの女性はナイロン靴下を宝石のように大事にしている。ポーランド人は、みすぼらしい身なりをしているが、敬意を払いたくなるほどの尊厳を保っている。世界でもっとも大きい村モスクワは、人間の間尺に合うようにはつくられていない……。国ごとに異なる空気を感じ取り、政治や経済情勢を考察する。駅員、通訳、ウエーター、列車の乗客など、市井の人々と接する機会をとらえては民衆の本音を聞き取ろうとする。町の気配や人々の表情が鮮やかに描かれ、良質な映画を見ているかのようだ。訳者による丁寧な解説が、時代背景の理解を大いに助けてくれる。
(新潮社 2200円+税)