「秘録・公安調査庁アンダーカバー」麻生幾著
公安調査庁の分析官・芳野綾、37歳。美しく、聡明で、負けず嫌い。潜水艦の模型に目がない軍事オタク。そんな綾に、現場の調査官から緊急の報告書が届いた。4日後、武装した海上民兵を乗せた90隻もの漁船が、中国福建省の港を出航、尖閣諸島の魚釣島へ向かう計画があるという。情報提供者は、公安調査庁の主要協力者の一人、中国共産党中央最高幹部〈X〉。情報の信憑性は高い。国家的重大事態を察知した綾は、迅速に行動を開始した。
情報の収集・提供を通じて政治決断に資するために働く組織、公安調査庁を舞台に、緊張をはらんで展開する諜報小説。
迫り来る有事を前に、危機感と使命感に突き動かされた綾は、徹夜で必死の検証作業を行った。しかし、報告を聞いた上司たちの反応は、なぜか鈍い。綾はいら立ち、怒り、違和感を覚える。協力者を疑っているのだろうか。
それでも情報分析を続けるうちに、綾は不気味な想像をするに至った。もし、今度の作戦を、中国共産党指導部は知らず、人民解放軍の一部だけが知っているとしたら……。
フィクションとはいえ、不安定なアジアの現実と重なる。公安調査庁の研修内容、協力者獲得工作や接触場面、尾行や監視の方法なども詳細でリアル。
さまざまな協力者たちからの情報が一つにつながったとき、今そこにある危機がくっきりと見えてくる。
(幻冬舎 1700円+税)