自慢のスニーカーを奪われた少年が報復に…
「フッドムービー」という映画ジャンルがある。フッドは「ネイバーフッド」、つまりご近所の意味で、ここでは黒人近隣地区を舞台にした映画を指す。昨今、見どころのある黒人映画はこのフッドムービーかコメディーに多い。
たとえば、いま都内公開中の「アンクル・ドリュー」はペプシコーラの米テレビCMから生まれたコメディー。設定はニューヨークの下町のバスケ大会に出場したジイさんチームが大暴れという、実は現役のNBAプロ選手が老人に扮装したジョークの産物だ。
他方、今週末新たに封切りになるのが、育ち盛りの少年を主人公にしたシリアスな成長物語の「キックス」である。
カリフォルニアの小さなフッドで育ったブランドンはお決まりの母子家庭の一人っ子。女の子のような整った顔立ちだが、フッドの基準はタフでないタイプはアウト。おまけに小柄でやせっぽちだから、ヘタレの友達とつるむほかない。それでもバイトの金をためて買った「エアジョーダン」のオリジナルモデル。この自慢の赤いスニーカーが彼の世界を一変させたと思ったとたん、通りすがりのチンピラに奪われる。報復を誓うブランドンは売人の叔父貴の家から拳銃を持ち出し……。
主演はジャキング・ギロリーという14歳。劇中、「ウィル・スミスの息子」とからかわれる線の細いタイプだが、独特の緊張感が幼い殺気に変わる瞬間がいい。大人の目から見れば「たかがスニーカー」でも、彼らには魔術的なパワーを発揮する「キックス」(スニーカーをさす俗語)。
川村由仁夜著「スニーカー文化論」(日本経済新聞出版社 1700円)はニューヨーク在住のファッション研究者によるスニーカーをめぐる故事と挿話の集成。M・ジョーダンが当時のNBAの規則を無視して赤と黒のスニーカーを履いてファンを増やした例などが豊富に紹介されている。 <生井英考>