「人種の壁」を越えた夭折の天才黒人画家

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 音楽やスポーツの世界で成功したアメリカの黒人は多いが、美術となると一気に少なくなる。一般にも名を知られた現役アーティストとなると皆無に近いといっても過言でないだろう。しかしその例外がジャン=ミシェル・バスキア。80年代の画壇に突如現れたグラフィティ(落書き)アートの若きヒーロー。アンディ・ウォーホルの親友とまで称される注目を集めながら、周囲からの期待と圧力で麻薬禍に追いこまれた夭折の天才児である。

 来週末封切りの「バスキア、10代最後のとき」は彼が本格的にデビューする前の、最も輝いていた時代を追憶するドキュメンタリー。

 時代背景は不景気と都市のドーナツ化現象で荒廃しきった70年代のニューヨーク、マンハッタン。家出してホームレスまがいに暮らしながら地下鉄の車両や建物の壁に描きなぐった絵と言葉が注目され、画壇の目をストリートアートにくぎ付けにした。

 映画は難解になり過ぎない程度にありきたりの説明を省き、当時の友人や恋人らのインタビューを通して「あのころ」の熱気と肌触りをいきいきと蘇らせる。監督のサラ・ドライバー自身が親友だったこともあって「天才児」の神話化を避け、独特の愛嬌とずうずうしさでみなに愛されながら若くして死んだ友の横顔を慈しむように描き出す。

 映画は特に強調してないが、バスキアは事実上初めて美術界における「人種の壁」を越えた画家だった。とはいえ彼の両親はプエルトリコとハイチからの移民。南部とは違うカリブ海系の黒人文化のセンスも、バスキアのパワーの源だった。

 ハイチ系アメリカ人作家といえばエドウィージ・ダンティカが日本でも愛読者が多い。彼女の小説「ほどける」(佐川愛子訳 作品社 2400円+税)には、バスキアにちなんで「ジャン=ミシェル」の名を持つ恋人が登場する。 <生井英考>



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