「ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ」
11月に予定される米連邦議会中間選挙は、トランプ政権下で保革逆転をめざす民主党に絶好の機会。わけてもニューヨーク州の下院選挙第14区では議員歴の長いベテランの男性を28歳のヒスパニック系新人女性候補が破って民主党統一候補になり、大きな話題になった。その第14選挙区の近隣社会を描いたドキュメンタリー映画が今週末封切りの「ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ」だ。
一口にニューヨークといってもマンハッタン以外は高架電車の音が終日うるさい下町。移民が多く、もちろん金持ちなどおらず、日々の仕事が忙しいから差別なんかしてる暇もないのでゲイカップルなどにも寛容という近隣だ。映画はこの気さくで陽気な下町模様を終始映しながら、その陰でいかに秩序と寛容を維持するかに心を砕く地元の人々の努力にも目を向ける。
監督は大ベテランのフレデリック・ワイズマンだから、そのあたりのバランス感覚は秀逸。実はトランプ当選など夢にも思われなかった2014年に撮影し、翌年に完成した作品なのだが、日本公開はまるで図ったように反トランプ機運とシンクロすることになった。 ところで冒頭に触れた女性候補は地元出身のアレクサンドリア・オカシオコルテス。民主党といってもヒラリー・クリントンの守旧派ではなく、バーニー・サンダースに連なる最左派の社会民主主義者。大学卒業後もバーテンダーとウエートレスで生計を立てたという下町っ子で、公約を見ても夢想家のようなことを掲げる一方で、水商売であれ3K労働であれ毎日勤勉に働く下層中流階級の哀歓には敏感なのがわかる。
要するにサンダース議員が「バーニー・サンダース自伝」(大月書店 2300円+税)で語るような60年代世代のユートピア的な志が、今日の政治情勢のもとで逆に花開こうとしているわけなのである。 <生井英考>