「月」辺見庸著

公開日: 更新日:

 ふと目がさめる。まぶたがひらいたまま、目がさめる。みえない。とくになにも……。物語はこの独白から始まる。語り手は「きーちゃん」。園の入所者で、性別年齢不詳。目が見えず、話すこともできない。上肢、下肢ともに動かせず、ベッドの上でひとつの“かたまり”として存在しつづける。しかし、その思考は自由闊達、鋭敏な感覚で周囲を「観察」し、時には「あかぎあかえ」という人格的な分身を使って動き回ることも。

 そんなきーちゃんが注視しているのが「さとくん」だ。園の介助職員で、表面的には明朗闊達で入所者から人気があったが、途中で辞職。その後〈にんげんとはなにか〉という大問題に行き当たり、世の中をよくするべく、〈にんげん〉でない者の浄化作戦を決行する。きーちゃんはさとくんのおぞましい心の暗部へ入り込み、さとくんの計画決行に至る内面に深く迫っていく――。

 相模原市の「津久井やまゆり園」での障害者殺傷事件に想を得た小説。全編、冗舌ともいえるきーちゃんのひとり語りで、表層的な言葉でしか語られてこなかったこの事件の〈語られない真実〉をすくい取ろうと試みた衝撃作。

(KADOKAWA 1700円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭