「どこへ行っても犬と猫」安彦幸枝著
愛犬家や愛猫家は、自宅でかわいい「うちの子」が待っているのにもかかわらず、外出先でもついついよその家の犬や野良猫に目がいってしまうものらしい。そのうち、顔馴染みの犬や猫ができたりして、家で待っている「うちの子」に悪いと思いながら、浮気気分の「アバンチュール」を楽しんでしまうこともあるようだ。
著者も同じように、いつも「風景の中に、犬はどこだ、猫はどこだと探してしまう」という。
本書は、そんな著者が旅先や外出先で出合った犬や猫の写真を収めた作品集。
イタリア・マテーラの町の道端で、洗濯物と並んでつかの間の日差しを浴びて日光浴をしながら昼寝をする犬、ロシア・ブリヤート共和国の露店の前で行儀よく「おこぼれ」を待っている(おそらく)野良犬。
イギリス・ミックルトンの町では散歩中に目に入った水たまりに勇んで入り込み、水遊びに興じる犬など。なんともほほ笑ましい犬たちの姿から、その国の動物と人間の関係や、土地の人々の温かみが伝わってくる。
もちろん、犬たちがのびのびと暮らす土地は猫たちにとっても天国だ。
ベトナムのドンバンの民家で煮炊きをする、かまどのそばで暖をとる黒猫、ミャンマー・チャイントンではバナナの葉をテーブルクロスにした食卓をのぞきこむ猫、カンボジア・ポーサットの孤児院では子供たちが授業中で留守のベッドで授乳する猫のママと子など。人間たちの暮らしに寄り添うように生きる猫たちの周りには、なんともゆったりとした時間が流れている。それも、彼らを邪険にすることがない人々の心のゆとりがもたらすものだろうか。
南イタリアのバーリで見かけたハチワレの猫にいたっては、路上駐車された車のすぐそばの歩道の上で、いままさに昼寝に取り掛からんと、足を折りたたんで「香箱」を組んでいる。この猫は、自分の昼寝が誰にも邪魔されないことを知っているのだ。
もちろんカメラは、日本での日々の暮らしで目に留まった犬や猫にも向けられる。きっと掃除中だったのだろう、庭に現れた通い猫を持っていたほうきでやさしくブラッシングする風景や、散歩中の犬と一緒に散歩を楽しむ「地域猫」、雪が降る日に台所と思わしき場所で隙間に入り込んで足だけが見える昼寝中の猫、飼い主と畑に出てトラクターの運転手気分を味わっている犬など、なんともほほ笑ましい。
表紙の写真は、スイス・アルプスの村グリンデルワルトで、眼下に村々を見下ろす絶景の中でアルペンホルンを吹くご主人の足元で、演奏に聞き入る真っ白な犬の写真なのだが、ほかに観光地や名所らしき場所で撮られたものはほとんどなく、作品はそれぞれの街の住人たちの普段の生活の中に溶け込んだ犬や猫たちの自然な姿をとらえる。
著者に連れられ、各街の犬や猫をめでながら、そんなゆったりとした旅の時間が味わえる写真集だ。
(KADOKAWA 1300円+税)