「冒険家たちのスケッチブック」ヒュー・ルイス・ジョーンズ&カリ・ハーバート著、和田侑子訳
世界が今よりも「広かった」時代、冒険家たちは恐怖心よりも勝る好奇心を原動力として、未開の地へと足を踏み入れていった。
本書は、そんな彼らが肌身離さず持ち歩き、その冒険の始終を記録したスケッチブックや手帳を集めたビジュアルブックだ。
スコットランド人のデビッド・リビングストン(1813~1873)は、アフリカ各地を伝道に歩いた8000キロもの旅で、ヨーロッパ人として初めてアフリカ大陸を横断し、ビクトリア瀑布を発見した探検家・宣教師。それまで謎に包まれていた「暗黒大陸」の全貌を明らかにした彼の手記は、イギリスとアメリカで大反響を巻き起こした。
1871年、奴隷貿易の中心地として栄えていたコンゴのニアングウェに到達した氏は、アラブの奴隷商人による大虐殺の現場に遭遇。その詳細を記すが紙やインクが尽きると、持っていた新聞紙にベリーの果汁で続きを書いて、その状況を母国に伝えた。このメモによって、奴隷市場は閉鎖に追い込まれたという。スペクトル画像解析によって蘇った新聞紙に書かれた文字がその臨場感を伝える。
ウィリアム・バーチェル(1781~1863)は、19世紀初頭、セントヘレナ島や南アフリカ、ブラジルを探検して膨大な植物を採取し、多くの新種を発見したイギリス人植物学者であり生態学者。
アフリカからだけでも6万種以上の標本を持ち帰るとともに無数のスケッチや記録も残した。弦と管でできたゴラーという楽器を奏でるブッシュマンを描いたスケッチには、その調べまで採譜して五線紙に書き残してもいる。
もちろん、南極点を目指す途中、猛吹雪で命を落としたロバート・ファルコン・スコット(1868~1912)が死の直前までしたためていた手帳をはじめ、ツタンカーメンの墳墓を発見したハワード・カーター(1874~1939)や、あのジェームズ・クック船長(1728~1779)など、歴史にその名を刻む有名人の資料も多数収録。日本人では唯一、植村直己(1941~1984)のメモが掲載されている。
52歳にして思い立って娘2人を連れて南米旧オランダ領スリナムに向かい、ジャングルに生息する動植物を記録した科学絵専門の女性画家マリア・ジビーラ・メーリアン(1647~1717)の作品などは、まさに芸術品。カイマンに絡みつくニセサンゴヘビなど、対象を徹底的に観察し描写しながらも、それぞれの生き物の躍動感や生命力まで伝わり、見応えがある。
古くは、北カリフォルニアのアルゴンキン・インディアンの言語や暮らしぶりを記録することでアメリカ入植の初期の様子を英国に伝えた画家のジョン・ホワイト(生年不詳~1593)から、現代の紀行作家コリン・サブロン(1939~)まで、70人以上の資料を編んだ大作。
それぞれの冒険家たちの人生の軌跡や冒険中のドラマも解説として添えられ、ページをめくれば、彼らの冒険が疑似体験できる。
(グラフィック社 3800円+税)