習の強引な兵力削減政策で軍内部に不満と恨み
「中国人民解放軍」茅原郁生著
国家の軍隊ではなく「共産党の軍隊」なのが中国軍。本書は陸自出身のベテラン中国ウオッチャーによる本格的な論考で、新書ながらもその迫力は群を抜く。
かつて鄧小平が大胆に軍を改革できたのは毛沢東とともに革命を戦った「第1世代」としてのカリスマ性ゆえ。
しかし江沢民以後、「軍歴も軍功もない」世代で軍を統率するのは難事業。習近平は兵器の近代化の一方で「経済新常態」政策を唱えて30万兵力削減を進めるが、やり方は強引で軍内部に不満と恨みを残している可能性が高いという。
さらに軍の腐敗は既に恒常的。軍の腐敗には公金横領などの「後勤部」系と人事などで賄賂を受ける「政治部」系があり、前者だけでも3000億円規模に上るというから驚く。他方、習は陸軍中心の伝統から海と空を従事する方向へと切り替えを図り、外交・経済と連携した軍事的な宇宙開発も急ピッチで進めている。日本にとってまさに「いま、そこにある危機」なのだ。
(PHP研究所 980円+税)
「フューチャー・ウォー」ロバート・H・ラティフ著 平賀秀明訳
米空軍で長年新しい軍事テクノロジーの開発にたずさわってきた退役少将による「未来の戦争」論として、既に大きな話題を呼んでいるのが本書だ。
レーガン時代のスターウォーズ計画から関わってきた人だけにSFじみた発想から官僚主義の弊害まで知悉(ちしつ)しつつ、時代を超えて戦争は兵士に過重なストレスをかけるという。ハイテクによる戦争の「自動化」は加速するばかり。
人への圧力は増えているが世間は軍に無関心で、戦争映画などの大衆文化だけが紋切り型の英雄物語で「軍へのおもねり」を表していると警告する。
(新潮社 2000円+税)
「海の地政学」J・スタヴリディス著 北川知子訳
「四ツ星の大将」といえばエリート中のエリート。米海軍で初のNATO軍司令官となった退役海軍提督による「シーパワーの世界史」。大航海時代に始まる戦史だが、古くさくないのは現在との関わりが絶えず示されるから。イスラム国は十字軍との戦いをいまなお遂行しており、ローマを標的に、不法移民にまぎれたり密航船で地中海を渡ってイタリアに潜入するとみる。
米軍との戦いばかりで世界地図は成り立っていないのだ。
(早川書房 960円+税)