移民のアメリカ
「移民国家 アメリカの歴史」貴堂嘉之著
「国境封鎖で移民を排除する」と息巻くトランプ。その真偽は? 現場の実態は?
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「不法移民排除」を傲然とぶち上げ、白人至上主義を掲げ、スウェーデンのような白人国家からの移民は「大歓迎だ」と人種偏見をむき出しにするトランプ。しかしもともとアメリカはヨーロッパだけでなく、アジアをふくめ世界中から人々がやってきてできた「移民の国」。しかも近年の歴史学では、移民がひとつに溶け合って「アメリカ人」になるという「アメリカ同化論」はもはや過去のもの。単に母国からアメリカへという片道切符ではなく双方を行き来する例や、アメリカの国内での大幅な移動やさらに国外への移動など世界的な規模での「人流」を視野においた「人の移動のグローバル・ヒストリー」が普通になりつつあるという。
本書はこの立場から書かれた新しいアメリカ史。一橋大学教授の著者は、アメリカを「白人国家」とする見方自体が単に古いという以上に元から誤っていたことを雄弁に描いている。
(岩波書店 840円+税)
「ルポ不法移民とトランプの闘い」田原徳容著
読売新聞国際部で長年、各地の海外特派員をつとめてきた著者。「トランプ劇場」という著作もあるだけに、トランプ政治が人々の暮らしに与える直接の影響や困難を社会部記者の脚力で取材した力作ルポだ。
メキシコ国境地帯では幼児のころ両親とともに不法入国してそのまま成人になったメキシコ人男性が、トランプ政権誕生と軌を一にして国外退去になり、人生が暗転したさまなどを紹介。
他方、移民受け入れを宣言して反トランプ姿勢を打ち出す「聖域都市」では、不法滞在者に息子を殺された母がトランプを支持して「聖域都市禁止法」の成立を後押しする姿も描く。
(光文社 900円+税)
「移民政策と多文化コミュニティへの道のり」吉成勝男、水上徹男編著
移民問題はアメリカだけではない。安倍政権の入管法改正による「なしくずし移民」問題はまさに日本の話。本書は来日した外国人労働者を1990年代から支援してきたNPO法人の代表らによる長年の活動の集大成。
前半のヤマ場となるバングラデシュの労働移民(出稼ぎ労働者)の聞き取り調査では、90年の入管法改正が、財界の要請による人手不足解消というより、在留資格の変更による不法滞在者の急増だったことが明らかになる。昨今話題の入管法改正問題を考える際にも参考になる。
(現代人文社 2900円+税)