「探偵はバーにいる」東直己著
酒の登場する小説は数あれど、本書の酒の描写は半端ない。冒頭、主人公の便利屋兼探偵の〈俺〉が根城にしている、札幌ススキノのバー「ケラー・オオハタ」で依頼人の話を聞きながら飲み、その帰りに寄ったカフェバーで飲んだ酒と杯数を挙げてみると、ラスティ・ネイルを何杯か、マティーニ、ギムレットを5杯、店を替えてジャック・ダニエルズのストレート(12オンス・タンブラーになみなみ)を4杯。翌朝10時に起きて、24時間営業の喫茶店で朝食代わりにベーコン・エッグとミックスサラダ、そしてスーパー・ニッカのストレートをダブル! と、ここにも酒が登場。この調子で全編酒、酒、酒のオンパレードで物語が進んでいくのだ。
【あらすじ】依頼人は北大の後輩・原田で、半同棲相手の彼女がここしばらく部屋に戻ってこないので、調べてくれないかというもの。どうせ痴話喧嘩の類いだろうと気乗りのしない〈俺〉だったが、調べていくうちに最近起こったデートクラブで起きた殺人事件に、その失踪した彼女が関係しているのではないかという情報を得る。
殺されたのは、ピンクサロンの元ウエーター工藤で、悪いうわさもなく生真面目な人間だったという。その工藤が死んだビルを見ながら涙を流す美人に近づくが、けんもほろろに追い返される。そこへ地元のヤクザから呼び出しを受け、事件はますます複雑な様相を呈していく……。
【読みどころ】大泉洋・松田龍平主演の映画「探偵はBARにいる」の原作だが、こちらはアルコール度が極めて高く、〈俺〉のめちゃくちゃな飲みっぷりには呆れながらも、シチュエーションによって種類と量を微妙に変えていく作者の手技に感心させられる。 <石>
(早川書房 760円+税)