いまやアイドル人気のギンズバーグ老判事の人生
いま米政界が密かに固唾をのんで見守る案件が最高裁の判事指名問題。それは昨秋すでに決着したでしょ? といわれそうだが、実はいまや少数派のリベラル派判事のうちルース・B・ギンズバーグは最高齢で、最近も肺がんと骨折で手術したばかり。もしこれで彼女が倒れたら現大統領が保守派を指名するのは必定なのだ。過去の大統領なら終身身分の最高裁判事は保革のバランスを考慮するのが当然とされたが、“トランプ流”の下では辞めるに辞められないでいる情勢なのである。
そのギンズバーグ判事の果敢な人生に光を当てた話題のドキュメンタリーが今週末封切りの「RBG 最強の85才」。
保守的な50年代にコーネル大からハーバード、コロンビア両法科大学院で優秀な成績を収め、しかも学生結婚した夫と学業、子育て、仕事を平等に分担。おまけに夫マーティンは若くして精巣がんを患い、そのリハビリ中も妻が2人分のノートを取って勉学を支えたという。
アメリカだって最高裁判事は雲の上の人。しかし映画は彼女とその周りの人々の喜怒哀楽に素直に迫り、いまやアイドル人気の老判事の快活な素顔を明らかにする。たとえ政治的立場が違っても、この映画の彼女を嫌いになるほうが難しいだろう。
一方、日本の最高裁はアメリカよりさらに雲の上イメージの強い“司法の要塞”。しかし近年では一般市民の生活感覚をふまえた判決も見かけるようになってきた。
泉徳治著「一歩前へ出る司法」(日本評論社 2700円+税)は、最高裁第1小法廷の裁判官時代、婚外子差別の判断を「違憲」とする少数意見を書くなど「顔の見える最高裁判事」といわれた氏を囲む座談会形式の回顧録。同氏による「私の最高裁判所論」と併せ読むと、日本の裁判所の素顔がちらりとでも垣間見えるようだ。
<生井英考>