「火星無期懲役」S・J・モーデン著、金子浩訳
フランクは51歳の男だ。息子にドラッグを売りつけた保安官の息子を射殺した罪で懲役120年を宣告される。この男が火星に送られるところから物語が始まっていく。
この時代、刑務所も民間企業に委託されているが、その親会社は火星基地を建設するために囚人を使うことを考えるのである。人を火星まで運ぶ大型宇宙船を建造するには莫大な費用がかかる。おまけに連れ帰るとなったら予算は膨大だ。それでは帰還しない者たちを火星に運べば、少しは費用が削減される。
というわけで、刑務所で人生を終えることが確実な囚人に声をかけるのである。残りの生涯を刑務所で終えるか、それとも帰還は出来ないけれど、刑務所でいるよりも行動が自由になる火星を選ぶか、と選択を迫るわけだ。
どのみち火星なので逃げ場はないが、それでも刑務所で人生を終えるよりはいいだろうとフランクは参画を決意する。彼を含めて7人の囚人が火星に向かうことになるが、医者にドライバーにコンピューターの専門家と、基地建設に必要な技術を持つ人間ばかり。
この囚人たちが火星で次々に死んでいくのである。事故なのか殺人なのか。殺人なら誰が犯人なのか。フランクは火星という「閉ざされた空間」で推理していくことになる。
つまり、火星を舞台にした長編であるからまぎれもなくSFではあるけれど、犯人捜しのミステリーでもあるということだ。異色のミステリーとして堪能されたい。
(早川書房 1200円+税)