「隠居すごろく」西條奈加著
定年後をどうやって過ごすか、というのは年配者にとって重要な問題である。本書の時代背景は江戸時代だが、それはいつの時代でもかわらないのだ。
本書の主人公、嶋屋徳兵衛は6代続いた糸問屋の主人だが、隠居を宣言するところから始まっていく。この徳兵衛、隠居したからといって特に何をするわけではない。しかも長年連れ添ってきた妻は隠居所に同行せず、これまで通り家にいるという。特に妻と何かをするつもりであったわけではないが、なんだかアテが外れたような気がしないでもない。
で、嶋屋からそう遠くないところに隠居所をつくって引っ越すのだが、すぐにやってきたのが孫の千代太。まだ8歳のかわいい盛りの男の子だ。幼い子の足でも行き来できるところに隠居所をつくったのが大正解。妻が来なくても孫が毎日通ってくれれば、それで十分だ。ところがこの孫、いろいろなものを連れてくる。最初は犬、次に猫。どんどん拾ってくるのだ。最後はとうとう人間まで拾ってくる。ボロ雑巾のようなものを身にまとい、顔も手足もまっくろの兄と妹。「飯、食わしてくれるっていうから、ついてきただけだ」と、態度もふてぶてしい。しかもその兄妹だけならともかく、孫の千代太はどんどん連れてくるから大変だ。
というわけで、徳兵衛の隠居計画は大幅に狂いだすという長編である。しかしこういう生活も悪くないとの気がしてくる。
(KADOKAWA 1600円+税)