「昭和トワイライト百景」フリート横田著
時代は平成から令和へと移り、ますます遠くなっていく昭和だが、なぜか人々は昭和の風俗やモノに魅せられ続けている。本書も、東京とその周辺に残る昭和の風景を訪ね歩いたフォトルポルタージュ。
東京・池袋の西口、ロマンス通りの奥に鎮座するハチの巣模様の外装の薄桃色のレジャービル「ロサ会館」は、昭和43年のオープン。創業者の伊部禧作氏は戦前に製薬会社を営んでいたが、終戦直後、闇市の風景に「戦後に必要なのは娯楽だ」と映画館をオープン。西口の再開発に合わせ、本格的なレジャー施設の建設を思い立ち、ロサ会館が誕生したという。
今でこそ娯楽の殿堂として知られるが、完成当初は、1階のテナントが決まらず経営は四苦八苦。そんな中、ウクライナ人のミハエル・コーガン氏と知り合い、彼の会社のアーケードゲームを置くことになり、その後、「スペースインベーダー」の登場によって、客が大挙して押しかけるようになったそうだ。コーガン氏の営んでいた会社が現在のタイトーだ。
そんな由来や歴史をたどりながら、建物の魅力を伝えていく。
新宿・大久保にある昭和45年竣工の「第3スカイビル」は、建築好きの間では「軍艦マンション」の通称で広く知られている。
円筒形の給水タンクが横付けされたペントハウスが、戦艦の艦橋さながらの景観を生み出しているからだが、採光のために住宅ユニットが壁面からせり出したその外観も、見る人を圧倒する。
「狂気の建築家」と呼ばれた渡邊洋治氏の作品で、引用された著作の言葉からだけでも、相当の熱量の持ち主と分かる。本ビルは海外でも注目され、建築家は各国から講演に招かれたというが、本人は意外にもこの建物を気に入ってはなかったらしい。
他にも、立ち退きにあったヤミ市の露天商らが集まった秋葉原のガード下の「ラジオガァデン」や、開業以来80余年、ほぼ変わらぬ姿のJR鶴見線・国道駅の駅舎など建物・土木構造物編にはじまり、「ラジオガァデン」と同様、立ち退きにあった露店の飲み屋が集まり、江東区扇橋1丁目に往時のまま残る長屋風飲み屋街「扇橋ヤミ市酒場」などの酒場編。
そして最盛期には二十数軒もの店が並んでいたが今は八百屋さんが1軒だけ営む豊島区雑司が谷の木造アーケード商店街「雑二ストアー」などの路地・街角編の3部構成で21の物件を巡る。
中には、取材後にすべての店が閉じて廃虚となってしまった葛飾区の「木根川商店街」や、取り壊されてしまった川崎の「亀甲マーケット」のように、すでにその寿命を迎え、もう二度とあえない物件もある。
こうした昭和の風景が人々を魅了するのは、街という街が便利で清潔に「進歩」したが、一方で「街が退屈になってきていることの違和感」を抱き、「戦後~高度成長期にかけてでき上がった建物や街角、意匠に心惹かれ、癒やされ、古さに新しさを感じる人が増えている」からではないかと著者は言う。
その土地の人々に話を聞き、風景の歴史を丹念に掘り起こしながら進む読み応え抜群の一冊。
(世界文化社 1400円+税)