「選挙制を疑う」D・ヴァン・レイブルック著 岡﨑晴輝ほか訳

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 大揉めの英議会からタレント大統領のウクライナ、中道衰退のEU議会と、世界中で選挙と民意をめぐる波乱が巻き起こっている。

 いま世界中を覆っている政治現象は「民主主義疲れ症候群」だ。誰もが民主主義を求めると口では言うのに、実は誰も民主主義を信じていない。世論調査では世界人口の85%が民主主義を望ましいと答えているのに、民主主義の正統性はむしろ低下している。だから、と著者は提案する。選挙制などやめて、抽選で代議制を行えばよいではないか――。

 この大胆な提案を行った本書は2013年にベルギーで出版され、すぐに欧州各国で次々に訳された。さらにアメリカに飛び火し、「ニューヨーク・タイムズ」書評欄などで大論争を巻き起こしながら、今回の邦訳に至ったという。古代ギリシャから現代のトランプ政治まで縦横に目配りしつつ、病におちいった民主主義に大胆な処方箋を提案する。

 巻末の詳しい訳者解題が理解を助けてくれる。 (法政大学出版局 3400円+税)

「NOでは足りない」ナオミ・クライン著 幾島幸子、荒井雅子訳

 断固とした「NO」から、大胆な「YES」へと説く警告と行動提言の書だ。

 著者はカナダ出身のジャーナリストで活動家。イラク戦争後の「復興」に便乗して儲けようとする企業を徹底的に批判した「ショック・ドクトリン」で知られた人だけにトランプ政治には断固批判的だ。

 しかし現実がこれほどまで悪夢なら「夢は売れる」とユーモアも巧み。民主党きっての左派として知られるサンダース候補の「何」が足りないかなど、現実をよく見据えた議論が面白い。 (岩波書店 2600円+税)

「『社会を変えよう』といわれたら」木下ちがや著

「行動する政治学者」というと60年安保みたいだが、現代では街頭デモばかりでなく、ツイッターやフェイスブックを駆使し、主流派メディアに頼らない「運動」のかたちを模索する。本書はその実践のひとつ。安倍政権、戦後史、そして3・11後の3つを柱に思いをつづる。

 戦後の自民党支配のなかでも安倍政権ほど長期に4割以上の支持率を保ってきた政権はない。しかし一方、安倍政権ほど直接の抗議行動にさらされた政権もない。しかも安倍政権を「支持する」直接行動はいずれも不発。やがて首相は引きこもり、御用メディアのインタビューやニコ動にしか姿を見せなくなった。これは街頭で大旋風を巻き起こした小泉政権とは真逆だったのだ。

 日常的な市民感覚に基づいた政治社会エッセー。 (大月書店 1600円+税)

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