「それ行け!!珍バイクmini」ハンス・ケンプ著
ベトナムの街中を埋め尽くすバイクは、この国の代名詞にもなっている。ホーチミン市だけで200万台を超えるバイクが道路という道路を縦横無尽に走りまわるさまは、まるで激流のようでもあるが、その一台一台に目を凝らしてみると、時折、とてつもない過積載のバイクが平然と走っているのに気がつく。
路上で見つけたそんな「とんでもバイク」=珍バイクを撮影した写真集。
後ろから見たら運転手の姿はすっかり隠れ、ポリタンクの小山が動いているようにしか見えないバイク。その量は軽トラック1杯分は優にありそうで、空ゆえに重さは大したことがなくても空気抵抗でバランスをとるのが大変そうだ。
ざるやストロー、空容器など軽いから大量に積むことが可能なのかと思えば、食用油が詰まった「大五郎」並みの大きなペットボトルを荷台だけでは足りずにバイクの両側、そして運転中の股ぐらにもこれでもかと積んだお兄さんや、中身の入った灯油タンクを合計で8個(ということは少なく見積もっても120キロ以上!!)運ぶ人など、重さもものともしない。
中には、ドアやガラス、トラック用の巨大タイヤなど建築資材や自動車部品など工業製品を運んでいる人もいる。老いも若きも運転手は、無理をしている様子はなく、みな一様に涼しい顔をしてバイクを運転している。
運転手と荷台に座った2人組がバイクの全長の2倍はありそうな鉄でできた飾り塀を肩に担いで走っているさまは、もはや曲芸だ。
こうした光景を見ていると、この国ではバイクで運べない物はひとつもないように思えてくる。
過積載バイクのインパクトが大きすぎて、前後に子供3人を乗せたお父さんや、アオザイ娘の3人乗り、果ては一家5人乗りなど、日本ではご法度の乗員オーバーも、常識の範囲内に見えてしまうから不思議だ。
ドリアンやバナナなど、大盛りの南国フルーツはもちろん、生きたままのアヒルや子豚、鶏、食用の犬、はてはスープ用なのだろうかむき出しの肋骨や大きなサメまで、食材もありとあらゆるものがバイクによって配達される。
なぜこれほどまでにバイクで運ぶことにこだわるのか。著者はその理由のひとつとして「毎食ごとに新鮮な食材を手に入れたいという美食家たちの飽くなき食への欲望」を挙げる。農園や港、食肉処理場からダイレクトに消費者に届けるために、「一度に大量の食材を輸送する代わりに、小分けにして何度も運び、いつでも輸送する」のだという。
こうしたバイクに衝撃を受け、「将来は消えてしまう現象を記録に残さなければ」と撮影を始めた著者だが、経済発展とともに街並みや街路が整備され、高級スポーツカーが道路をかっ飛ばすようになっても、珍バイクはその数が減るどころか増えているという。
「珍バイク」という一断面からだけでも、ベトナムという国とそこに暮らす人々のパワーが伝わってくる。
(グラフィック社 1500円+税)