「[北欧流]焚き火のある暮らし」エイヴィン・ベルク著 井上廣美訳
人間が火を使いこなせるようになったのは約50万年前。自在に扱えるようになると、火は人間の強力な武器となり、火を使いこなすことが、人間と動物との最初の明確な違いとなった。
オール電化が進み、家庭から火が消えつつある今、現代人は熱源や光源としてではなく、楽しみのために火を焚く。
本書は、暗く厳しい冬をやり過ごすために、伝統的に火を生活の中にうまく取り込んできた、北ヨーロッパのノルウェー出身の著者がその知恵と技を伝えるビジュアルブック。
ノルウェーの先住民族サーミ人の言葉では、キャンプファイアを意味する単語が、焚く場所や使用する薪、規模などTPO別にさまざまあるそうだ。その土地に生まれた人々にとって、火がどれほど重要だったかが分かる。
彼らは、キャンプファイアに点火することを「ドーッレ・ビエイェム」と呼ぶ。これはキャンプファイアの周囲に集まるという意味であり、火を囲めば、会話が弾み友情がもたらされるからだ。
そんな火と人間の関係や、キャンプファイアの魅力を、実際の原野など、さまざまなシーンで焚き火を楽しむ人々の写真とともに伝える。その写真に写る炎を見ているだけで、薪のはぜる音や薪が燃えるなんとも言えない匂いまでが立ち上り、記憶の片隅にある、かつて焚き火を囲んだ思い出がよみがえってくる。
久しぶりに焚き火がしたくなってうずうずしてきたら、いよいよ後半は実践編だ。
キャンプなどで、焚き火を楽しんでいる人はご存じのように、簡単そうに見えて奥が深いのが焚き火。
火おこしの簡単なルールは、「下に樹皮と木片、その上に乾いた焚き付け。火がついたら、火に薪をくべる」。たったこれだけのことが、うまくいかないのだ。
小旅行に出かけた先で、いつも焚き火で沸かしたコーヒーを楽しんでいたという著者の父親は、火をつけるのに使うマッチは1本だけで、失敗したことがないという。しかし、著者はマッチ以外の装備の用意も勧める。
父親の世代は新聞紙を使っていたが、火種を作るにはカバノキの樹皮が一番であり、その火を樹脂を含む薄い木片、そして薪へとだんだん大きくしていく。
カバノキは薪としても最上だというが、料理には乾燥したナナカマドやヤナギも向いているという。
そんな薪の解説はもちろん、ファイアピット(火を焚くための穴)や石の上など、どこで火を焚くのかにはじまり、丸太や石を使った調理用のかまどの作り方、薫製などキャンプファイア料理のレシピ、そして焚き火後の後片付けまで。
大自然の中で炎と向き合う至高のひと時をあなたも。
(原書房 2500円+税)