「風狂ヴァイオリン」小川征也著
津村澄人は49歳。大手製薬会社の大阪支店長を務め、社長から内々に来年の役員昇進を約束されている。人もうらやむ順風満帆の人生。だが、澄人は若い頃から、50歳までサラリーマンをやるが、以降は風来坊になると公言していて、妻ともその条件で結婚したのだ。
いよいよ実行するべく、まずは京都の修学院近くに下宿を定める。とはいえ、哲学の学徒という大家の希望を無視し、おまけに保証人なしというむちゃな要望を強引に受け入れさせてしまう。
澄人の目指す風来坊とは、ヴァイオリン一つを身のよすがに、鳥のようなコスモポリタンになること。手始めに行ったのは神戸のソープで、ソープ嬢2人相手のヴァイオリンのライブ。続いて、平安神宮近くの動物園の河馬(かば)の前で路上ライブ。河馬たちは何の反応も示さず、やむなく三条大橋へ移動するが、地元のヤクザに脅されてしまう。なんとも破天荒だが、彼はなぜ風来坊になることになったのか。そこには若くして亡くなった親友と、ニューヨークで客死した実母の思い出があった……。
奇行を繰り返す澄人だが、そこには日常の壁を越えた世界を求める大人のロマンがあふれている。
(作品社 2000円+税)