「風狂ヴァイオリン」小川征也著

公開日: 更新日:

 津村澄人は49歳。大手製薬会社の大阪支店長を務め、社長から内々に来年の役員昇進を約束されている。人もうらやむ順風満帆の人生。だが、澄人は若い頃から、50歳までサラリーマンをやるが、以降は風来坊になると公言していて、妻ともその条件で結婚したのだ。

 いよいよ実行するべく、まずは京都の修学院近くに下宿を定める。とはいえ、哲学の学徒という大家の希望を無視し、おまけに保証人なしというむちゃな要望を強引に受け入れさせてしまう。

 澄人の目指す風来坊とは、ヴァイオリン一つを身のよすがに、鳥のようなコスモポリタンになること。手始めに行ったのは神戸のソープで、ソープ嬢2人相手のヴァイオリンのライブ。続いて、平安神宮近くの動物園の河馬(かば)の前で路上ライブ。河馬たちは何の反応も示さず、やむなく三条大橋へ移動するが、地元のヤクザに脅されてしまう。なんとも破天荒だが、彼はなぜ風来坊になることになったのか。そこには若くして亡くなった親友と、ニューヨークで客死した実母の思い出があった……。

 奇行を繰り返す澄人だが、そこには日常の壁を越えた世界を求める大人のロマンがあふれている。

 (作品社 2000円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭