「酔芙蓉」篠綾子著
長承3(1134)年、初秋。11歳の藤原忠雅は、末茂流の藤原家成の中御門邸を訪れた。父・花山院忠宗が亡くなり家成の元に婿入りすることになったのだ。末茂流は中流貴族で摂関家傍流の花山院よりかなり格下。忠雅は生活の保障、家成は家柄という互いの利あってのこと。
忠雅の手には一株の白い花があった。明け方は真っ白く昼過ぎには薄紅色に染まる酔芙蓉。そこへ酔芙蓉のように美しい少年が駆けてきた。義弟の隆季だ。隆季はその美貌ゆえ、以後貴人・権力者の寵愛を受け、徐々に上流貴族への道が開けていく。その隆季に思いを寄せながら、忠雅もまた権謀術数の渦に巻き込まれていく。
時あたかも、後白河天皇と崇徳上皇が皇位継承を巡り対立、平清盛、源為義の武士勢力も加わり、保元の乱が起こる。乱は収まったかに見えたが、火種はくすぶり平治の乱へと続く。その混乱に乗じて権力の頂点を目指す平清盛と盟を結んだ隆季は、出世の階段を上っていくが、彼にはある女性への一途な思いがあった……。
平安末期の乱世に、生き残りを懸けて権力の間を揺れ動く貴族と新興勢力の武家の野望を、男色の側面から描いていく。
(講談社 1700円+税)