「蒼色の大地」薬丸岳著
舞台は、明治時代の瀬戸内地域。両親を亡くし、15歳から2人で生きてきた榎木新太郎とその妹の鈴は、新太郎が軍人からの支援を受けて海軍兵学校に入り、妹を無理やり高等女学校に入れたことから仲たがいしてしまった。新太郎が軍人になることに反対していた鈴は、新太郎が帰省したにもかかわらず、旅に出てしまう。鈴が向かったのは、瀬戸内海に浮かぶ謎多き島・鬼仙島。子どもの頃、鈴が誤って沼に落ちてしまったときに助けてくれた幼馴染みの灯を捜しにきたのだ。灯は蒼い目であることを理由に村人から差別を受けていたのだが、鬼仙島には蒼い目の人間が多く住んでおり、村を出ていった灯はこの島にいるのではないかと鈴は思っていた。しかし灯は、瀬戸内海を跋扈する海賊になっていた……。
子ども時代を共に過ごした新太郎、鈴、灯の3人が時を経て、思いもよらない形で邂逅を果たす物語。本作は、伊坂幸太郎の呼びかけで始まった8組9人の作家による競作企画「螺旋プロジェクト」の作品のひとつ。海と山という2つの世界の対立が生み出してきた過酷な運命にあらがう若者の葛藤を描く。 (中央公論新社 1700円+税)