「50歳からのむなしさの心理学」榎本博明著/朝日新書/2019年
榎本博明「50歳からのむなしさの心理学」は、仕事中心に生きていた中年サラリーマンの実態を見事に描いている。
<50歳の声を聞くと、仕事をすることで自分が習熟していく感じがなくなるばかりか、ビジネス環境の変化について行くのがしんどくなったり、能力開発の限界を感じたり、個人的な業績の伸び悩みが気になったりして、これまでとは違うといった感覚に襲われる。/そこで、いわゆる上昇停止症候群と言われる症状に陥りがちとなる。上昇停止症候群とは、若い頃のように頑張れば頑張るほど仕事ができるようになり、それが認められて地位も上がっていくといった感じがなくなり、停滞感に苛まれることを指す。上昇から水平飛行に移行する感覚、あるいはさらに下降気味になっていく感覚を生じる>
確かに40代後半以降に新たなことを学んでもなかなか身につかない。50代で上手に水平飛行に移れる人と、いつでも上昇しなくてはいけないという強迫観念にとらわれている人では、その後の人生が大きく変わってくる。
<自分の内面にくすぶるむなしい思いに直面するのを避けるかのように、仕事にのめり込む。自分を振り返る余裕が生まれるのを怖れるかのように、自分を仕事に駆り立てる。/(中略)自分はワーカホリック気味かもしれないと感じる人は、仕事への没頭がむなしさにつけた仮面でないかどうか、じっくり考えてみる必要がありそうだ>の指摘は、事柄の本質を突いている。仕事に逃げ込んでもむなしさは消えない。
こういうときに重要なのは、何でも相談できる人がそばにいるかだ。しかし、そういう人を見つけるのが意外と難しい。
<仕事人生に行き詰まりを感じ、ふと我に返ったとき、多くの人がこれまで見逃していたこと、ないがしろにしてきたことに気づく。(中略)/いつの間にか人間関係の世界から落ちこぼれてしまっている。一番身近な間柄であるはずの家族とも疎遠になってしまっている>との指摘もその通りと思う。
家族よりは、仕事上の利害関係がない学生時代の友人関係を復活する方が、現実的な処方箋のように思える。 ★★★(選者・佐藤優)
(2019年8月1日脱稿)