「高いワイン」渡辺順子氏
今やすっかり身近なアルコールとなったワイン。しかし、その奥深さから「イマイチ分からない」と感じている人も多いだろう。
本書は、ベストセラー「教養としてのワイン」の著者による高級ワインの紹介本。奥深さも値段も一級の“高い”ワインにスポットを当て、その来歴や驚きのエピソード、造り手秘話などを写真とともに紹介している。
「ワインの楽しみは、味わいはもちろんですが、実はその背景にある物語の面白さにもあるんですね。それが高いワインとなればなおさらで、産地の特徴や歴史、特別な畑、はたまた1本のワインをめぐる争いまで、思わず人に話したくなる逸話がある。高額ワインは、そうしたさまざまな要素が絡まって生まれるんです」
本書には、ワインを楽しむために知っておきたい個別銘柄のうち、特に高いワイン=一流ワイン150本を紹介しているが、高いワインの代名詞といえば、やはりロマネコンティだろう。フランス・ブルゴーニュ地方の特級畑で造られ、「神から与えられたワイン」との異名を持つこのワインは、なんと1本約220万円(参考価格)である。
「ロマネコンティとは畑の名前で、大きさはわずか1・8ヘクタール。陸上競技場ほどの広さしかありません。その中でも十分に養分を吸い取ったブドウだけで造るため、年間わずか5000~6000本しか生産されないんです。そのため、昔から争奪戦を繰り返してきており、18世紀、名称のもとになったコンティ公とポンパドール夫人とが畑の所有の座を巡って争った話は有名。実はロマネは2018年にも大きな話題になったんですよ。落札価格6000万円というロマネが出たんです」
ユニコーンワインと呼ばれる1945年産が、ニューヨークのオークションに出品されたのだ。
45年産は存在さえ幻といわれ、偽物が多く出回り誰も本物を見たことがなかった。しかし、出品されたその2本は完璧な来歴。世界中のコレクターが獲得に躍起になり、アメリカ人と中国人が競り落としたのだという。1杯に換算すると、1000万円超えである。
最近、人気のビオ・ワインも、その手間暇のかかりようは想像以上だ。ビオディナミ農法といって、天体の動きに合わせて造っており、まさにオーガニックを超えるオーガニック。常にオークションでは高値で落札されているという。
「今、最も影響力を持つワイン評論家といえば、アメリカ人のロバート・パーカー氏です。多くの評論家は☆印で評価を付けていたんですが、彼は100点満点の点数を採用した。それがアメリカ人には分かりやすかったんですね。アメリカで一般にワインが広まった90年代はIT、金融バブルの時期とも重なり、みながパーカーポイントをもとに買ったものだから、フランスのシャトーも無視できなくなっていったんです。いってみれば、アメリカによってワインがビジネスになり、現在のような高額ワインが登場するようになったんです」
高額なだけに偽造ワインも多く出回っており、その攻防戦はまるでミステリー小説のようだ。温度センサー付きのラベル、GPSによるボトルの追跡、通常では読み取れないようボトルに施したナンバー、そして世を賑わした偽造犯ルディ・クルニアワンの手口などもつづられている。
「高い一流ワインは、飲んだときに体にスーッと入っていく感じがするんです。3Dのように広がっていくような味わいがありますね。気分のよい酔い方で、二日酔いはしません。安価なワインとの違いですね(笑い)」
毒を盛られないためにボトルが透明になったロシア宮廷御用達のシャンパンや、所有権を巡って国同士が争ったデザートワインまで、飲まずとも味わえる一流&高いワインの世界をご堪能あれ。 (ダイヤモンド社 1700円+税)
▽わたなべ・じゅんこ 愛知県生まれ。2001年、オークションハウス「クリスティーズ」のワイン部門に入社。帰国後、「プレミアムワイン」設立。16年には老舗のワインオークションハウス「ザッキーズ」の日本代表に就任。著書「世界のビジネスエリートが身につける 教養としてのワイン」が話題に。