「長期停滞の資本主義」本田浩邦著
日本を含め世界の主要先進諸国は経済成長の長期停滞に陥っている。賃金の抑制と雇用の非正規化が進み、十分な所得と老後保障を得た国民は3分の2に満たない。かつての成長は高賃金と社会保障の組み合わせによる。前世紀初頭から30年代まで独占資本主義に対する所得分配調整の結果で、「資本主義と民主主義のできちゃった婚」のようなものだった。
しかし70年代にこの結婚は冷め、別居状態になったわけだ。だが、いま仮に80年代初頭の賃金水準に戻しても経済の下層は救われない。技術革新が生活の利便を大幅に向上させ、活発な投資が雇用を拡大した時代は終わり、IT革命などの革新も生活の細部を便利にしたにすぎないからだ。ではどうするのか。
リベラル派経済学者の著者は各種の長期停滞論を詳しく検討し、「ベーシック・インカム」(最低所得保障)を提言する。
(大月書店 2500円+税)
「資本主義はいかに衰退するのか」根井雅弘著
古典派経済学に正面から対立し、「イノベーション」(革新)を信奉した経済学者シュンペーター。本書は彼の理論を、同じウィーン大学に学んだミーゼスとハイエクと比べながら読み解く。
社会主義を否定したシュンペーターは、それでも「資本主義は衰退する」と説いた。めざましい革新をもたらすイノベーションの担い手が大企業の中の専門家集団に取って代わられ、日常業務化してしまうと革新ではなくなる。
また資本主義が成熟するにつれて、中世貴族的なパトロン精神や政治的威信が消滅し、「元帳と原価計算」のみに熱中する企業家や商人の天下になってしまうという。レトリックを駆使したシュンペーターをよりよく理解するための入門解説。
(NHK出版 1400円+税)
「資本主義に出口はあるか」荒谷大輔著
「右派対左派」「保守対リベラル」という区分はもはや古い。代わって「ロック対ルソー」という構図を提起する著者は哲学・倫理学者。
私的所有の是認を近代化の一歩とするロックと財産の放棄を求めるルソー。「出自の平等」をいうロックと「結果の平等」を説くルソー。名誉革命後のイギリスの発展を支えたロック思想と、フランス革命に影響を与えたルソー思想。
まさに真逆の組み合わせから、現代社会の難問に迫る。
(講談社 900円+税)