「花や今宵の」藤谷治著
29歳の智玄は、有給休暇を取って故郷に帰省。幼馴染みの和田と12月22日に、智玄の実家が管理する「しんの」と呼ばれる山に登るためだ。19年前の同じ日、智玄と同級生の亜菜は、禁じられていた「しんの」に登った。その夏、智玄は亜菜の父親で郷土史家の善男から集落に伝わる平家の落人伝説を聞き、興味を抱いたのだ。
善男によると、平忠度の「行き暮れて木の下かげを宿とせば花やこよひのあるじならまし」の歌は、冬に咲く「しんの」の桜を詠んだものだという。しかし、善男も見たという冬の桜を見に出かけた山で、亜菜が忽然と姿を消してしまった。
少年時代の出来事に決着をつけるため故郷に戻った智玄を主人公に、読者を意外な結末へと導く長編小説。
(講談社 670円+税)