「黄金列車」佐藤亜紀著
第2次大戦末期のハンガリー王国ではナチス・ドイツの傀儡政権が成立し、それに伴い大規模な反ユダヤ政策がとられた。1944年12月、敗色が濃厚となった政府は、戦後を見据えて、ユダヤ人から没収した大量の財産を列車に積み込んだ「黄金列車」を首都ブダペストからオーストリアへ移送することにした。
物語は大蔵省の官吏でユダヤ資産管理委員会委員のバログの視点で描かれていく。列車には没収品の管理や警備を担う担当者とその家族、親衛隊、憲兵隊が乗り込み、途中、戦禍を逃れた難民や鉱夫、浮浪児らも加わる。
彼らの中には列車に積まれた食料や酒、貴金属類を狙う者や賄賂として着服しようとする軍人と、それに対するバログら役人たちの虚々実々の駆け引きが淡々と語られ、合間にバログの妻の思い出やユダヤ人の友人の回想が挟み込まれ、意に染まぬ仕事に加担するバログの内面が描かれる。
無理無体な要求に対して、法律と前例主義を盾に積み荷を守ろうとする役人たちのしたたかさは、現代日本への痛烈な批評ともなっている。
(KADOKAWA 1800円+税)