ウィルスは「生物」というより「生命体」
「ウイルスは悪者か」高田礼人著
新型コロナウイルスの世界感染! しかし単にウイルスを駆除すればいいわけではないのだ。
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ひげ面にポニーテールというヒッピースタイルでアフリカや世界各地を駆け巡る著者の肩書は「北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター教授」。主な専門がエボラ出血熱とインフルエンザのウイルスだ。
そのため自らザンビアの深い森に分け入り、エボラウイルスを手ずから捕らえようとする。特に渡り鳥のようにアフリカ大陸を自由に移動するオオコウモリは人と動物のあいだの感染をつなぐ「人獣共通感染症ウイルス」の自然宿主と考えられているという。そこで直接捕獲して研究するというわけだ。
まるで冒険物語のようなエピソードに始まる本書はウイルスという「曖昧な存在」をわかりやすく、中高生にもわかるように解説する。といっても子ども向けではない。野山を駆け回るのが好きな少年だったという著者が50歳過ぎてもなお保つ若々しい好奇心で懇切に教えてくれるのだ。
ウイルスは「生物と無生物の中間に位置する」特異な存在。遺伝情報として核酸(DNA・RNA)を持ちながらも「生物」というより「生命体」に近いウイルス。
著者は90年代から鳥インフルエンザなど各種のウイルスと各地で格闘してきた。エボラ出血熱などのワクチンも、採算が合わないため必ずしも製品化されるとは限らない。専門家ならではの理解とジレンマも吐露される。今回の新型コロナウイルスについてもいずれぜひ報告してほしい。
(亜紀書房 1850円+税)
「ヒトがいまあるのはウイルスのおかげ!」武村政春著
とかく悪者あつかいされがちなウイルスだが、ウイルスこそは世界の成り立ちを支える重要な存在であることを説く。たとえば「善玉菌と悪玉菌」で知られる腸内細菌などはウイルスが単なる悪者でない証拠。腸内フローラをいい状態にするのもウイルスの役目なのだ。
「巨大ウイルス学」を専門とする東京理科大教授の著者は、若手研究者だった時代、DNAポリメラーゼ酵素の進化を調べ、真核生物の進化にはDNAウイルスが関わっていたことを実証する論文をアメリカの専門誌に発表した。それは生物進化に果たされるウイルスの役割についての大きな仮説を提示するものだった。
ヒトも動物もウイルスも、自然は互いに関わり合って成り立っているのである。
(さくら舎 1500円+税)
「感染る」赤江雄一、高橋宣也編
「感染」をキーワードに、疫学や生物学から歴史学、はては文学まで多様な分野の専門家が大学でおこなった連続講義の記録、これが本書だ。
分子生物学の専門家によると感染とは「寄生の一過程」。一般にはウイルス感染ばかりがイメージされがちだが、感染には菌によるもの(たとえば水虫)や原生生物によるもの(たとえばマラリア)もある。
そんな初歩的な話から始めて予防接種による感染防止とはなにか、感染症と貧困の関係はどうか、人口学からエイズ感染を見る手法、またコンピューターウイルスの感染、文学作品に表された感染などのテーマへ広がってゆく。
実際の大学での講義録が収録されたユニークな感染論だ。
(慶應義塾大学出版会 2400円+税)