「ビジュアル パンデミック・マップ」サンドラ・ヘンペル著/竹田誠、竹田美文 日本語版監修/関谷冬華 訳
中国に端を発した「新型コロナウイルス」は日を追うごとに世界に拡散。WHOがパンデミック(世界的な流行)を宣告するのも、もはや時間の問題と思われる。
思い返せば、人類の歴史とは、ペストや結核、コレラなどさまざまな伝染病との闘いの歴史だった。
日本でも大騒ぎとなった、2009年春から10年春にかけての新型インフルエンザをはじめ、02年秋から03年夏にかけてのSARS(重症急性呼吸器症候群)、12年のMERS(中東呼吸器症候群)など、21世紀になってもその闘いに終わりは見えず、新型コロナウイルスが新たな一ページに加わることは明らかだ。
これほど医学や科学が進歩しても、人類が根絶できたのは唯一、天然痘(1980年にWHOが根絶宣言)だけというから、その闘いの難しさが分かろうというもの。
本書は、歴史上何度も繰り返されてきた伝染病の大流行の中でも特筆すべきものを取り上げ、それぞれの伝染病でパンデミックやエピデミック(広い範囲での流行)が、なぜ起こり、どのように広がっていったのか、その経緯を特別な地図を用いながら解説してくれるビジュアルテキスト。
伝染病がなぜ起こり、広がるのかという人類にとっての長年の謎に光が見えたのは19世紀の半ばだった。
専門家たちが感染地図という地図を使って予防法を考え、感染の拡大を防ぐようになったからだ。
世界初の感染地図は、1854年にコレラが大流行していたロンドン・ソーホー地区で生まれた。
スノウ医師は、ソーホー地区でのコレラの感染源が汚染された飲料水だと特定するが、当時の医学界には受け入れられなかった。そこでスノウは自説を証明するために地域の家を訪ね歩き、犠牲者が出た家の情報を市街地図に重ねた。これが世界で初めての感染地図だ。この地図が、死者の大多数がある井戸の周辺に集中し、別の井戸の近くでは少ないという疑いようのない事実を示したのだ。
後に「スペインかぜ」と呼ばれるようになった1918年のインフルエンザの大流行では、5000万人もが犠牲になったといわれる。その流行の発端となった患者第1号は、米国カンザス州の米軍基地で料理番をしていた兵士のアルバート・ギッチェルだった。
瞬く間に基地内に広まり、その間にも健康に問題がないとされた兵士がヨーロッパ戦線に送られ、世界中に広まっていったと思われる。他にも諸説あるそうだが、現在の新型コロナウイルスは、その状況を再現しているかのようだ。
他にもジフテリアや、ハンセン病など空気感染症から、ペストなど動物由来感染症、そしてエボラ出血熱などのヒトからヒトへの感染症まで20の伝染病を、地図だけでなく当時の様子を伝える絵画や写真、ポスターなどとともに解説。
こんなときだからこそ、改めて人類と伝染病との関係を見つめる良い機会となってくれるタイムリーな一書。
(日経ナショナルジオグラフィック社 2600円+税)