「日本の山ができるまで」小泉武栄著
登山愛好家の数は1000万人を超えるともいわれるほど山が大好きな日本人。それは今に始まったことではなく、江戸時代には登山を趣味とする大名がいたほどで、明治時代には学校などによる集団登山も始まり、乳飲み子を背負った若い母親が富士山に登ったなどの記録まであるという。さらに古くは5000年も前の縄文人も山に登っており、いわば日本人の山好きはDNAともいえるそうだ。
日本人がこれほど古くから山に登り始めたのは、国土の至る所に山があるということもあるが、その最大の理由は日本の山々が美しいことにあると著者は言う。本書は、これまで日本の山の個性や魅力が生まれた背景をさまざまな視点から紹介してきた著者が、最新の地質学の成果をもとにして、山を構成する岩石(地質)の年代順に日本の山々の生い立ちや、日本列島の歴史と山の地形の関係を多くの図版とともに読み解いていくビジュアルテキスト。
かつてユーラシア大陸の一部だった日本は、大陸から分離し、およそ1500万年前に現在の位置に落ち着いた。東北日本の大半はまだ海中にあり、その後に陸化するが、そのころの日本列島には標高1000メートルに満たない程度の山しかなく、全体になだらかだった。
しかし、300万年くらい前から隆起の時代に入り、日本アルプスをはじめとする各地の山脈や山地が急激に隆起を始め、現在の姿になっていった。山にはこの造山運動でできる山脈の他に火山があり、300万年前から始まった火山活動は100万年前以降に顕著になり、現在私たちが目にする火山の大半は数十万年前以降にできた若い火山だという。
日本列島をつくる地質(岩石)は多様性に富み、その基盤の地質分布は20余りの地質帯に分けられる。まずはその成り立ちを詳細に解説。
その地質帯のひとつ、飛騨帯を代表する剱岳と立山は、同じ1億8000万年前の毛勝岳花崗岩を起源としているが、剱岳が鋭くとがったピークをつくるのに対し、立山は岩石の風化が進み山全体が丸みを帯びている。これは剱岳では7000万年前と700万年前の2回、マグマの貫入によって古い花崗岩が焼きを入れられ、風化で緩んだ岩石の組織が締まって硬くなり、侵食に抵抗してとがったピークが維持されたからだ。
以降、5億年以上も前の古太平洋の海洋底の一部だった「橄欖岩」からなる北上高地最高峰「早池峰山」をはじめ、意外にも10万年前以降の火山活動で生まれた「若い」富士山まで、日本の山々の地質と地形について詳述する。
日本海開裂時に噴出した火砕岩が今も海岸の岩場として残る山陰海岸ジオパークの今子浦や、若狭湾の蘇洞門海食洞、東中国山地の扇ノ山にある柱状節理の部分を落下する珍しい「筥滝」など、特徴ある地形や高山植物などの植生の成り立ちにも言及。
山を愛するすべての人にオススメ。山々の生い立ちを知れば、登山がさらに豊かで充実した時間となることだろう。
(エイアンドエフ 2400円+税)