「海の十字架」安部龍太郎著
大村純忠(おおむら・すみただ)は、ある日、家老・朝長伊勢守純利から近衛バルトロメオという男を紹介される。
イエズス会から頼まれてきたというバルトロメオは、これまで貿易の拠点とした平戸でもめ事があったため、大村領内の横瀬浦に移したいと言う。
開港が許されれば、年間銀1000貫を払い、純忠が攻められたときはポルトガルが軍艦と大砲で支援するとの申し出に純忠の心は揺れる。大村家の養子である純忠にとって、先代の子・貴明や平戸領主・松浦肥前守らは脅威。それを回避できるのはありがたい話だった。
横瀬浦の開港を許した純忠は、イエズス会からの強力な援護を期待して、家臣25人と共に洗礼を受ける。その数カ月後、貴明らが裏で糸を引く軍勢に攻められる。大村湾で水軍に距離を詰められ「どうか助けてくれ」と天を仰いだとき、前方にバルトロメオが乗った船が現れた……。
日本初のキリシタン大名・大村純忠の決断をつづった表題作ほか、宗像氏貞、長尾景虎ら戦国武将と大航海時代との関係を描いた6編を収録。
(文藝春秋 1400円+税)