「アパレル興亡」黒木亮著
主人公は、親の反対を押し切って高校卒業後、山梨から上京した田谷毅一。大学への進学が経済的事情でかなわず、ならば東京で自分の力を試そうと思い立ったのだ。就職したのは、朝鮮戦争の特需景気に沸く服飾業界で成長中の「オリエント・レディ」。創業者の池田定八の厳しい指導のもと、次第に頭角を現し始める。やがて社長になった田谷は、自社を日本を代表するアパレルメーカーに押し上げる。確固たる力を持った田谷は、社内の誰も逆らうことのできない絶対的な存在になっていた。しかし、そんな田谷にも時代の変化が容赦なく訪れる。
婦人服メーカー「東京スタイル」の社長・高野義雄氏をモデルにした主人公・田谷を軸に、アパレル産業の栄枯盛衰を描いた経済小説。イトーヨーカドー創業者の伊藤雅俊氏や村上ファンドの村上世彰氏、ユニクロの柳井正氏など実在の人物も登場し、ヒルズ族との攻防などよく知られている史実も織り交ぜながら、アパレル業界の変遷をたどる。繁栄を極めたメーカーが、硬直化した社内事情に足を取られているうちに新興勢力に取って代わられる様子がなんとも切ない。
(岩波書店 1900円+税)