「雪と心臓」生馬直樹著
近年、もっとも魅力的なヒロインである。本書に登場する帆名だ。
勉強も運動も群を抜いているが、遊びの面でも鮮やかだから、これでは勇帆の立場がない。本書の語り手である勇帆は次のように述懐する。
「これがまだ年の離れたきょうだいなら我慢できただろう。ぼくのお姉ちゃんはちょっと頭がおかしいけど、なんでもできて、すごく優秀な人なんだよ、と。自慢にさえなったかもしれない」
問題は、帆名が年の離れたお姉ちゃんではなく、双子であることだ。だから、比べられると立場がない。中学生になったとき、勇帆の同級生は帆名を評してこう言った。
「あんなに乱暴で、勝手で、自我まる出しで生きているのに、不思議とまったく孤立していないんだ」
高校生になったときの挿話が鮮やかだ。勇帆が不良のリーダーに殴られると、金属バットを持って訪ねていき、血だらけになって帰宅した彼女は次のようにうそぶく。
「かわりにあいつのバイク、ぶっ壊してやったから、こっちの勝ちでいいんじゃないの」
大半が小中高の時代を描いていくので、少年少女小説の趣があるが、プロローグとエピローグにちょっと仕掛けのあるミステリーでもあるので、これ以上の詳述は避けたい。こういう女性はどんな大人になるんだろう、とどんどん妄想が広がっていくのである。
(集英社 1500円+税)