「岩井克人『欲望の貨幣論』を語る」丸山俊一著/東洋経済新報社

公開日: 更新日:

 お金って何だろう。なぜ紙切れが価値を持っているのか。それは私が小学生のときに感じた疑問で経済に興味を持ち始めたきっかけだった。

 本書は昨年NHK―BSで放送された「欲望の資本主義特別編・欲望の貨幣論2019」で行われた岩井克人教授へのインタビューを、番組では放送できなかった部分も含めて番組のプロデューサーが取りまとめたものだ。日本を代表する経済学者と物事を分かりやすく伝えることのプロがタッグを組んだことで、理解がむずかしい貨幣論を実に分かりやすく展開している。

 岩井は、貨幣が人々を自由にすると言う。お金があれば、身分や地位にとらわれず、好きなモノを買えるからだ。しかも貨幣経済は、物々交換よりもはるかに効率的だ。

 ただ、岩井は貨幣には致命的な問題があると言う。モノを買うための手段のうちはよいのだが、そのうち、お金そのものが目的になってしまう。しかもその欲望は、とどまるところを知らない。

 実は、私は富裕層が孫の代まで遊んで暮らせるほどの大金を手にしても、さらに増やそうとするのを奇異に感じていた。私の見立ては、彼らがお金中毒という病気にかかっているからだというものだった。

 だが、岩井は違った。お金を増やそうという欲望そのものが、お金の本質であり、資本主義だと言うのだ。そのため、資本主義は、バブルとその反動である恐慌から逃れられない。さらに、格差の拡大や環境破壊をもたらす。本書によると、資本主義が抱える矛盾は、2400年も前にアリストテレスが指摘していたという。世界で初めて貨幣経済を成立させたのは、アリストテレスが生きた古代ギリシャだったのだ。

 逆に言うと、人類は2400年もの間、資本主義の欠陥を修正できなかったことになる。それどころか、この30年間は、グローバル資本主義の拡大で、欠陥をさらに先鋭化させてしまったのだ。

 どうしたらよいのか。岩井は、文章の形で論ずるには準備不足だとして、本書では詳しく話していない。本当はそこまで読みたかったが、それでも本書は、経済学徒ではない一般人が、資本主義の本質に迫ることのできる名著だと私は思う。

★★★(選者・森永卓郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動