「『第三者委員会』の欺瞞」八田進二氏
企業や行政組織で不祥事が発生した際、決まって耳にするのが「ただちに第三者委員会を設置し~」という言葉。問題の全容と責任の所在を明らかにするため、外部の専門家が入って真相究明が行われるのかと思いきや、残念ながらその実態は大きく異なるという。
「追及をかわして我が身の潔白を証明する。第三者委員会とは、そんな“禊のツール”になっていることが少なくありません。調査中はメディアからの隠れみのとなり、長々と時間をかけて調査が終わった頃には世間の注目度も薄れているため、第三者委員会を設置したということ自体を免罪符として不祥事を終わらせる。そんないい加減な“慣例”となっているのです」
本書では、近年のさまざまな不祥事について、どのような人が第三者委員を務め、どのような内容の報告書を作成してきたのかを詳細に解説している。例えば、2018年末の厚生労働省の事案だ。「毎月勤労統計」に本来と異なる調査方法が用いられ、データに誤りがあったことが発覚。雇用保険や労災保険の給付額に過少を生み、19年度予算案の修正にまで至った。
「国家レベルの不祥事を調べる第三者委員会には、そうそうたるメンバーが名を連ねました。ところが、委員長についた統計の専門家は厚労省から年間24億円を超す運営費交付金をもらって活動していた“厚労省ファミリー”。案の定、核心に触れないヒアリングと、エクスキューズが嫌というほど出てくる報告書が積み上げられ、責任についての具体的な言及もないままでした」
違法性はないと結論付けた2020東京オリ・パラ招致プロセスでの金銭支払い疑惑でも、第三者委員会のオブザーバーにJOCの常任理事という“身内”が含まれていたという。会計学者である著者は、2014年に発足した弁護士やジャーナリストから成る「第三者委員会報告書格付け委員会」のメンバーでもあり、数多くの報告書を精査してきた。本書では、前述の厚労省をはじめレオパレス21の施工不備問題や日大アメフト部の反則問題、神戸製鋼所の検査結果改ざんなどの第三者委員会について、格付け委員会による5段階評価も掲載している。
「第三者委員会のメンバーにはその不祥事に関する専門性も必要ですが、独立性や透明性のない組織では責任の所在を明確にすることは不可能です。第三者委員会には公から報酬が支払われるわけではなく、それを負担するのは依頼をした企業や団体。そこにどれだけのコストがかけられているのか、報告書に明示されないのも重大な問題です」
第三者委員会の巧拙は、選任プロセスの透明性、つまり不祥事を起こした組織のガバナンスがカギを握ると本書。会計監査の世界では、監査人の選任については基本的に株主総会での承認が必要だが、第三者委員会にはこうしたプロセスもなく、独立性や透明性など期待できそうにない。今後は第三者委員会を経営者が決めるのではなく、社外役員が独立した立場で選定に関わるなど手法を改める必要があると説いている。
「格付け委員会の存在も抑止力になりつつありますが、国民も第三者委員会の実態を知り、厳しい目を持って観察してほしい。そうしなければ企業は不祥事を繰り返して衰退し、ひいては日本の国力低下にもつながりかねません」
(中央公論新社 860円+税)
▽はった・しんじ 1949年生まれ。会計学者。慶応義塾大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。金融庁企業会計審議会委員、金融庁「会計監査の在り方に関する懇談会」メンバーなどを兼任。「鼎談 不正―最前線」「開示不正」「これだけは知っておきたい内部統制の考え方と実務」など著書多数。