「膠着 スナマチ株式会社奮闘記(新装版)」 今野敏著
企業の合併・買収(M&A)の手法のひとつにTOB(株式公開買い付け)がある。つい先ごろも伊藤忠商事がファミリーマートにTOBを実施したとのニュースが流れた。TOBの件数は年間40~50件程度というが、近年その規模は拡大傾向にあり、昨2019年にはTOBの買い付け金額は3兆円超だという。
無論、そこにはさまざまな思惑があるのだろうが、それによって大きな影響を受けるのは一般社員だ。本書は敵対的TOBを仕掛けられた中堅企業の社員が合併を阻止すべく奮闘する物語。
【あらすじ】スナマチ株式会社は、東京の江東区に本社のある接着剤の総合メーカー。接着剤メーカーの中でも小規模な方だが、結構名が通っていて上場もしている。
丸橋啓太は研修を終え、営業部に配属された新入社員。配属早々、注文の個数を1けた多く発注するという大失態をしでかし、教育係のベテラン営業マン、本庄と納入先の流通センターに謝りに行く。てっきり怒られると思った啓太だが、本庄は言葉巧みに1けた多い品物をそのまま店に置かせてしまう。
これが営業の力かと感心する啓太だが、大手のスリーマークがスナマチにTOBを仕掛けているとの噂が聞こえてきた。しかも、起死回生の新製品の開発が失敗するという不運も重なり、スナマチの存続は風前のともしびとなる。
そこで、その失敗作の転用を考えるというプロジェクトが組まれ、啓太も参加することに。いくら知恵を絞ってもいいアイデアは浮かばず、TOBが目前に迫る中、啓太にあるひらめきが浮かぶ……。
【読みどころ】警察小説、武道小説のイメージが強い著者だが、ユーモアの風味を加味しながら、独自の企業小説に仕立てているのは、さすが。 <石>
(中央公論新社 660円+税)