「小池百合子 権力に憑かれた女」和田泰明著/光文社新書
安倍晋三首相や西村康稔経済再生担当相、加藤勝信厚労相といった政府の要人がコロナ対策ではちぐはぐな動きを見せる中、全国各地の知事がリーダーシップを発揮しているように見える。あくまでも「見える」だけであることを本書を読むと分かるだろう。
都政と小池百合子東京都知事をウオッチし続けてきた筆者は、小池氏が自分にとって都合の良い、アピールできる部分のみをメディアに撮らせる技に長けていることを見抜いている。さらには、自分にとって都合の悪いことを聞いてくるであろう記者を当てないことなども白日の下にさらす。
〈それにしても、これほど記者会見で不快な気分にさせる政治家を、私は他に知らない〉
〈小池は、意地悪な質問でも想定内であれば冷たく無表情で応じる。だが、ふいに核心を突かれるとこうして笑顔をつくる。いわば“仮面”だろう〉
本書ではそれまで頼りない存在で橋下徹氏の「傀儡」であった吉村洋文大阪府知事がコロナで「化けた」と表現した。その一方、小池氏がそれほど実績をあげていないことや、公約を守っていないことなどを指摘する。ただし、豊洲市場の問題を明らかにしたことや、五輪にとんでもないカネがかかっていることを人々に知らしめたことは小池氏の功績であることは認めている。
本書を読んで感じるのが政治家という職業を選ぶ者の目立ちたがり屋性や権力への執着である。著者が評価した吉村氏は本書発売後に「イソジンがコロナに効くかも」発言で途端に評価を下げたが、あれも根拠不十分ながら、自らの存在感と維新の会を次期衆院選で躍進させるためにぶちかましたように感じられる。かくして、吉村氏も小池氏同様パフォーマンス型であることがバレてしまったわけだ。
あと、本書は2016年、小池氏が勝利した都知事選から2020年までの東京都の歩みを振り返ることができる。「自民党東京都連のドン」こと内田茂氏の素顔などにも言及したり、豊洲市場の「盛り土」問題など「あったあった」といった記憶を呼び起こさせてくれる。
それにしても小池氏は風を読む力を持っている。「排除」発言で評価を下げたものの、コロナで国会議員との差を見せつけ、五輪をめぐってはIOCや森喜朗氏を相手に一歩も引かず老害的な男を悪者にすることに成功する。
今後も小池氏は多数の会見に登場するだろうが、同氏の腹の内を探ることができる一冊である。
★★半(選者・中川淳一郎)