「人はなぜ『自由』から逃走するのか エーリヒ・フロムとともに考える」仲正昌樹著/KKベストセラーズ/2020年
現下の社会は病的だ。仲正昌樹氏(金沢大学教授)は、具体的に以下の問題を設定する。
<アメリカ人はどうして、トランプ大統領のように、あまり根拠の分からない“決断”をし、“敵”とはまともに対話しようとしないように見える政治家を信奉するのか? その傾向が世界中に広がっているのはどうしてか? ブラック企業による「やりがい搾取」のような現象はどうして起こるのか? ネット上で匿名クラスターをつくって、“カリスマ”を無条件に賛美したり、“敵”を集中攻撃して炎上騒ぎを起こすことに一日の大半を費やしている人は、何が楽しいのか? これらの問いに、無理に簡単に答えるとすれば、孤独と不安が蔓延しているから、苦しくて、どこかに救いを求めている、ということになるだろう>
人間は、自由を持つ。しかし、自由な選択に伴う責任を負うことが出来る人は少ない。そこから、権力や権威に自発的に服従することで孤独感や不安感を克服しようとする人が出てくる。このような人間の心理と行動を哲学的に掘り下げて考察したのがエーリヒ・フロム(ドイツ出身の社会学者・哲学者)の主著「自由からの逃走」だ。
フロムは、サディズムとマゾヒズムをキーワードにしてヒトラーの支配を読み解く。
<サディズムとマゾヒズムが常に表裏一体だとすれば、自らの民族を非合理的な命令によってサディスティックに支配するヒトラーが、自分よりも大きな力にマゾヒスティックに身を委ねるのは、ある意味、当然のことである。運命、神、自然に対してマゾヒスティックに受け身な態度を取ることで、ヒトラーは自らの内に「力」が流れ込み、それを、民を支配するために転用できる、と感じることができたのだろう>
ヒトラーの受動性(マゾヒズム)に潜む危険がよくわかる。菅義偉新首相は、耐えることができる苦労人のようだ。もしかすると菅氏にもマゾヒズムが潜んでいるのかもしれない。菅氏は、人事では意向に従わない官僚を異動すると公言するようなサディズムも備わっている。菅氏が政治的に大化けするときは、日本にもファシズムが定着することになろう。 ★★★(選者・佐藤優)
(2020年9月23日脱稿)