映画フリークにお薦めの本特集

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「怖い映画」町山智浩著

 映画は「どこでもドア」のようなものだ。あなたの知らない世界、あなたの生きてこなかった人生に連れていってくれる。さて、あなたは「どこでもドア」を開けてどこへ行きたい?



 1920年の映画「カリガリ博士」は、「ドイツ表現主義」の美術で知られる。背景のセットが歪んでいて、建物が斜めに傾き、遠近感も狂っている。不安な気持ちを歪んだ風景で「表現」しているのだ。

 見せ物小屋で、カリガリ博士が何十年も棺桶の中で眠っていた眠り男を起こす。この眠り男が、1人の見物客の寿命が明日の朝までだと予言し、その客を殺す。殺人シーンはナイフを振りかざす男の影が大きく映る壁だけで表現されていて、この撮り方はヒチコックにも影響を与えている。最後は精神病院のシーンで、カリガリ博士がなぜかその院長になっている。観客は、殺人は狂人の妄想だったのか真実だったのか、わからないまま取り残される。

 ほかに、「血を吸うカメラ」「狩人の夜」など、読むだけで眠れなくなりそうな映画9本を紹介。

(スモール出版 1400円+税)

「『百合映画』完全ガイド」ふぢのやまい編著

 映画「噂の二人」で、マーサとカレンは全寮制の女学校を共同経営している。カレンには婚約者がいたが、生徒のメリーが、マーサとカレンが恋愛関係にあると噂を流し、女学校は崩壊した。マーサは密かにカレンを愛していたことを告白して自殺する。同性愛が罪悪視されていたころの作品。

「フェアリーテイル」は少女たちが妖精の写真を偽造して社会を騒がしたコティングリー妖精事件の映画化。妖精は実在すると信じていたコナン・ドイルや、批判派の魔術師フーディーニが登場する。

「百合子、ダスヴィダーニヤ」では、ロシア文学者の湯浅芳子と作家の中條百合子が密室で互いの関係について激しくディスカッションする。大杉漣が怪演している。

 ほかに、萩尾望都の「トーマの心臓」を原案とし、少女が少年を演じた不思議な雰囲気の「1999年の夏休み」など、女性同士の関係性を描いた映画301本。

(星海社 880円+税)

「押井守の映画50年50本」押井守著

 2002年の「戦場のピアニスト」は、ロマン・ポランスキー監督の代表作とみられているが、押井は「言い訳映画」の典型だとみる。主人公のピアニストは戦争中は屋根裏に隠れているが、ナチスの将校が見逃してくれて防寒用のコートまで与えてくれる。ナチスが敗退したので外に出たとき、ナチスのコートを着ていたため撃たれそうになり、「オレはポーランド人だ!」と叫ぶ。

 ポランスキーはポーランドが社会主義だった時代に亡命して助かったことから、心に傷を負っていて、このピアニストに自分の人生を重ねた。だから、この映画はポランスキー独特の感性で描かれていない。ポランスキー以外の者には価値がない映画である。〈戦場のピアニスト〉

 他に「2001年宇宙の旅」など、押井が製作者としての視点から、インタビューで50本の映画について語る。

(立東舎 2200円+税)

「クエンティン・タランティーノ」イアン・ネイサン著 吉田俊太郎訳

「レザボア・ドッグス」や「パルプ・フィクション」で映画ファンの心をわしづかみにしたタランティーノは6年間、新作を作らなかった。その間に、インディペンデント映画界はかつての上品なサンダンス的作品ばかりになってしまった。彼は準備が整うまで待つだけの経済的な余裕があったので、アクション映画を企画していた。

 ハリウッド流のやり方でなく、「日本のヤクザ映画とか香港のギャング映画の流れをくむ形で作品を作る必要があるのなら、そういうふうに作るまでのことだよ」と語った。

 やがて発表された「キル・ビル」は、「パルプ・フィクション」製作の初めの頃から、タランティーノとユマ・サーマンが構想を温めていた復讐劇だったのだ。「ザ・ブライド」が射殺されるオープニングシーンも、サーマンの提案だった。

 幼年期から最新作までのタランティーノの評伝。

(フィルムアート社 3000円+税)

「ヨシキ×ホークのファッキン・ムービー・トーク!」高橋ヨシキ、てらさわホーク著

 ディズニー帝国は21世紀フォックスなどの著名な映画会社を傘下に収めた。2019年の興行収入ベスト10のうち、なんと7つがディズニーの配給作品である。だが、その作品は実写版「ライオン・キング」など、自社作品のリメークやスピンオフばかりだ。

 映画ライターのヨシキは、「ニュー・ディズニーの『美女と野獣』の『実写化』に手をつけてしまい、地獄の扉が完全に開いた」と断言し、ディズニーの遺産をディズニー自身が食いつぶすことを危惧している。資本主義が「自明のこと」になり、映画が「商品」になってしまった。ディズニー側は、現代人の観賞に堪えなくなったかつてのクラシックの延命のためにリメークしていると主張するが……。

 ほかに、マーティン・スコセッシ監督の「沈黙―サイレンス―」の「国辱映画」扱いなどについて、2人が激論を繰り広げる。

(イースト・プレス 1700円+税)

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