食をテーマにした文庫特集
「それでも気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている」村瀬秀信著
食を舞台にしたストーリーは数あれど、食べ物が星の数ほどあるのと同様、食にまつわる本も千差万別。今回は、外食チェーン店、日常の謎を解く名探偵シェフ、極上の日本料理を作る江戸の事件調査員、毒見係の殺人犯推理、常連客に慕われる毒舌女将の居酒屋が登場する、とびきりの食の本を5冊ご紹介!
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給料日前の金欠時にも世の腹ペコな諸氏に各地で救いの手を差し伸べてきた外食チェーン店。本書は、安くて最低限ハズレがない店を食べ歩いたライターによる外食チェーン店深掘り本だ。前作「気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている」に続く本作では、松屋、ジョナサンなど、36の店の醍醐味を紹介している。
たとえば、箸で食べられるパスタ屋として有名な洋麺屋五右衛門は、女性客優位のパスタ屋には珍しい男性一人客も多い店。大盛りが基本の「メンズセット」が用意されているだけでなく、馴染みの王道メニューはもちろん、「ウニといくらの醤油オリーブオイル」など和風とイタリアンを折衷したオリジナルメニューが豊富なのも売り。
コロナ禍の今、ピンチの外食チェーン店の価値を見直せるのが本書かも。
(講談社 610円+税)
「居酒屋お夏 春夏秋冬 山くじら」岡本さとる著
目黒行人坂の一角に「毒舌のくそ婆ア」と呼ばれる女将・お夏の居酒屋が新装開店を迎えた。母の敵である小椋市兵衛への敵討ちをした際、決闘の場となったのがお夏の居酒屋でその際、お夏の店は炎で焼け落ちたのだ。常連は店の焼失を嘆き、再建のため普請を集めて晴れて新装開店となったのだ。
新しい店でも今まで通り働くことになった料理人・清次は、再建間もないある日、珍しく忘れられない自分の過去を語り始める。
ならず者として知られていた十六という男が、殺した相手を埋めたと話していたのを偶然、聞いてしまったというのだが……。
口は悪いが温かい心を持つ女将が活躍する、ロングセラーの人情酒場シリーズ最新刊。義侠心あふれる女将の粋な計らいの数々に心温まる。
(幻冬舎 650円+税)
「マカロンはマカロン」近藤史恵著
舞台は、下町の小さなフレンチレストラン「ビストロ・パ・マル」。ある日、シェフ・三舟のフランス修業時代の仲間・羽田野が、年下の女性・岸辺と一緒に偶然店を訪れた。羽田野は腰を痛めて料理人は引退し、今は女性料理人を集めたレストランを経営しており、岸辺はそこで働くパティシエールだという。ところがその後、休暇で田舎に戻っていた岸辺が店にマカロンを送ってきて以来、連絡が取れなくなってしまったという相談を、三舟は羽田野から受ける。なぜ岸辺は姿を消したのか……。(「マカロンはマカロン」)
日常の何げない出来事の謎を、鋭い観察力で解明する名探偵シェフ・三舟の推理が楽しめる「ビストロ・パ・マル」シリーズの第3弾。表題作を含め8つの料理にまつわる見事な謎解きをご賞味あれ。
(東京創元社 720円+税)
「伊勢海老恋し」和田はつ子著
主人公は、日本橋の飯屋「塩梅屋」の2代目・季蔵。元武士の彼は、表向きは料理人だったが、市中の事件を調べる“隠れ者”(密偵)の顔もあった。
ある日、季蔵は金箔をあしらった菓子を作り元許嫁・瑠璃のもとに届けた帰り道、何者かにつけられたが、襲われるかと身構えた瞬間、道端の材木が崩れて、追いかけてきた男たちは下敷きになってしまった。何とか逃げ切った季蔵はその後、現場は何事もなかったかのように処理されていたと聞き、油断のならない状況が迫っていることに気づく。折しも市井では、伊勢のおかげ参りの騙りをするやからが出現していた……。
大人気の料理人季蔵捕物控シリーズの最新作。推理の鮮やかさはもちろん、タコと山芋のきゅうり酢かけ、鯛の刺し身を使った伊勢風なますなど、季蔵が作る日本料理の描写にも魅了される。
(角川春樹事務所 660円+税)
「ジャンクフードは罪の味」チェルシー・フィールド著 箸本すみれ訳
人並外れた味覚と嗅覚を持つ女性イソベルは、夫の10万ドルの借金を返済するため、オーストラリアからロサンゼルスに乗り込み、セレブ御用達の毒見係として働いている。今回のクライアントは若きIT長者。
不正告発サイトの運営をしているせいで敵は多いものの、ジャンクフードを食べながら一日中、パソコンの前にいる生活を送っているため、ほぼ毒殺の恐れはなく、恋人のふりをして家に通い続けるだけの仕事だ。
楽勝だと高をくくっていたものの、ある日、クライアントが姿を消し、イソベルは廃屋で死体となった彼を見つけてしまう。
ロス市警に協力するつもりが、危うく容疑者になりかけて次から次へと騒動が巻き起こる。
お毒見探偵シリーズ第2弾。窮地に陥った主人公の決死の推理劇が楽しい。
(原書房 930円+税)