「ふるさとの手帖」かつお(仁科勝介)著
「日本の市町村はいくつあるのだろう」。写真部に所属していた大学1年生の終わり、著者はふと湧き上がった疑問から、日本の市町村すべてを巡る旅を思いつく。そして2年をかけて準備を整え、21歳の春、相棒となる青色のスーパーカブにまたがり、長い旅に出た。
本書は、その旅で訪ねた1741の市町村を記録した写真集だ。
北海道の赤井川村にある道の駅「あかいがわ」の写真にはじまり、沖縄本島最北端・国頭村のコンビニ前に設置された記念撮影用の顔はめ看板まで、(旅の順番は異なるが)北から南下するように市町村ごとに1枚の写真を収録。
霧にかすむ洞爺湖(北海道洞爺湖町)や、今は亡き人気ぶさかわ犬「わさお」(青森県鰺ケ沢町)、日本の原風景のような里山にたたずむ合掌造りの相倉集落(富山県南砺市)、そして味噌カツ定食(名古屋市)や樹齢1000年のオリーブの大樹(香川県小豆島町)など、写真を見ただけでその場所が分かる景勝地や名物、名所など土地を代表する写真もあるのだが、そのほとんどは日常のスナップだ。
子供たちの下校風景(埼玉県志木市)や、夜空を見上げる人の瞳に映る打ち上げ花火(京都府亀岡市)、光に満ちた商店街(岡山県浅口市)、頭に落ち葉をのせた野良猫(広島県福山市)、パンクを直してくれたおっちゃん(高知県南国市)やダンディーなお父さん(静岡県掛川市)といった行く先々でお世話になったり仲良くなった人々など、旅をした著者でしか分からないその土地の記憶、記録を凝縮した写真が並ぶ。
それらの写真はきっと、その土地をふるさとにする人にしか分からない、その土地の住人たちの大切な思い出とも重なるのではなかろうか。
旅に出た初日に事故を起こして全治3カ月の重傷を負ってしまったり、天候や宿の予約が難しく超難関の「御蔵島」に渡る2日前の祖母の死など、アクシデントや身内の不幸を乗り越え、旅は続く。
ひとつの目標だった1000番目の市町村は、群馬県桐生市だった。群馬県には35の市町村があるが、エリアによって文化がまるで異なり、冒険家の気分で日々を進めたという。
桐生市では紹介された夫婦の家に宿泊させてもらった上に、機織り体験までさせてもらった。
そうした人や未知のものと出会い、体験する旅のワクワクはあるのだが、市町村一周へのモチベーションを保つのは難しい。進めど進めどゴールが見えず、我慢との闘いだったそうだ。
そんな旅を続ける原動力は「目の前の日々が誰かにとってのふるさとだという感動」だった。
旅を通じてさまざまな景色が教えてくれたのは「知らない景色は、永遠にあるのだ」というシンプルなものだった。終わりのない景色を通じて、「誰かにとってのふるさとが、この国をつくり、そっとこの国を支えている」ことを知ったと振り返る。
ページを開けば、懐かしいあなたのふるさとも必ず載っている。
(KADOKAWA 3180円+税)