「ニャン生訓」貝原益軒/養生訓、熊谷あづさ/現代語訳・解説、沖昌之/写真
今から300年以上前の江戸中期、貝原益軒によって書かれた健康指南書「養生訓」には、現代にも通じる心身の健康に役立つメッセージが数多く紹介されている。益軒先生は同書で、健康を維持するには心を穏やかに保つことが何よりも大切だと説く。
心を穏やかに保つとは、心を自由に遊ばせるということ。ストレスなく、のびのびと、自由に、気ままに……それって、まさに身近な「ねこ」そのもの。
ということで、イヤなことを我慢することなく、気の向くままに生きている猫をお手本に、現代人の心にも響く養生訓のメッセージに、ユニークで愛くるしい猫の写真を添えて解説するビジュアルブック。
「健康すなわち養生なり」
養生訓は冒頭で、「人の身体と命は授かりものであり、天地や父母、さらには祖先とつながっている貴いものである」と説く。ゆえに授かった身体はよく養生して寿命を長く保たなければならないと、「健康すなわち養生」と強調する。
主君のために命を捨てることが美徳とされた時代に「養生をして健康を保つことが人生で一番大切なこと」と主張した益軒先生は、かなり先駆的な考え方の人だったようだ。
この項目に添えられるのは野良猫の母子の写真。厳しい環境の中で生きる野良猫の寿命は3~5年だが、ペットフードが進化した現代の飼い猫の平均寿命は15年前後、20年以上も生きる長寿猫も珍しくない。
「気に目を向けよ」
養生訓のベースの考え方の一つが「人間の基本は『気』」である。目には見えないが「気」は人間の身体を満たしていて、たとえばそれが痛みやつらさといった「病」としてあらわれると「病気」になるという解釈だ。
飼い主が帰宅する前から猫が玄関の前で待っていることがある。これは人間の全身を包む静電気のような微弱な電界の変化を感じ取っているからだそうだ。
「快楽に流されるべからず」
いまや食べ過ぎや飲み過ぎが生活習慣病を招くことは周知の事実で、過剰な色欲もまた病の原因であることは現代人の常識である。
一方の猫は、排卵日に自発的に排卵する人間などの多くの哺乳類とは異なり、オス猫のペニスの根元についたたくさんの小さなとげで交尾時に刺激されることで排卵する。ゆえにメス猫にとって交尾はかなりの痛みを伴うが、この刺激のおかげで猫の妊娠率はほぼ100%だとか。そんな猫の健康や雑学知識も網羅。
ほかにも「人生の喜びは老年に在り」の項に道端の縁石に寄りかかってくつろぐサビ猫、「祈るべきは無病息災」の項では立ち上がって前脚を組んでなにやら一心に祈っている(ように見える)サバシロ猫、「按摩、指圧を怠るべからず」では三毛猫の背中を前脚で押してマッサージをしているかのような茶猫など、添えられた写真を眺めているだけで心がリラックスしてくる。
愛猫家はもちろん、コロナ疲れの読者にもオススメ。
(集英社インターナショナル 1500円+税)