「日本の外からコロナを語る 海外で暮らす日本人が見たコロナと共存する世界各国の今」 下川裕治責任編集/メディアパル/1300円+税
新型コロナ以降、海外在住日本人のツイッターやニュースサイトへの寄稿を目にすることが多くなった。また、米英在住医師が日本の対応について苦言をテレビで述べるさまなどを見てきた。
アメリカ在住の野沢直子もロックダウンの様子などを紹介するとともに、努めて明るく振る舞い続けている。野沢が執筆するアメブロの関係者によると、海外在住ブロガーのアクセス数は非常に良いのだという。それだけ海外のコロナ事情を知りたい人が多いのだろう。
本書はニューヨーク、上海、台北、ホーチミンシティー、シェムリアップ(カンボジア)、ソウル、バンコク、パリ、マニラ在住の日本人が現地の様子を報告するとともに、日本が当地からどのように見られているか、などの実感をつづっている。悲観的な話は多いものの、その中でも光明を見いだした話が多く、救いを感じられる。
上海に住むフリーライターの萩原晶子氏の報告は興味深かった。日本では「中国は情報統制をしているから実際は感染者が大量にいて死者も多い」といった意見が多い。だが、どうも上海については本当に封じ込めているようなのである。しかも、重苦しい日本の雰囲気とは異なることも羨ましい。以下は感染が広がった春ごろの状況だろう。
〈営業を続けた飲食店もあったが、嫌がらせにあったという話は聞かなかった。同調圧力や自粛警察が話題にならない上海人的理由は、「自分とは関係がないから」ということなのだろう〉
台湾は感染抑え込みに成功した国であることは間違いないが、それはいわば「鎖国」があってのもの。感染抑え込みは憧れの状況だが、話はそれでは終わらない。「歩く台北」台湾業務代表の広橋賢蔵氏はLCCを使っての「旅至上主義」になり、アジア各地や日本を巡ることを楽しんでいた。海外旅行ができなくなったことについてはこう書く。
〈その唯一無二の道楽を取り上げられ、台湾に氷漬けにされてしまったのだから、くさらないわけはない〉
安全は担保されたものの、娯楽は失われてしまった、という指摘だ。現在、世界は「変異種」の恐怖が覆い始めたが、結局、このコロナ騒動は今後どうなるのか? 東京五輪は開催されるというが、「鎖国」を続ける国が多いのに本当にできるのか? 世界各国からの報告を読み、コロナについては、日本国内のことだけでなく、世界に目を向けなくてはならないと感じさせられる。視野が広がる本だ。 ★★半(選者・中川淳一郎)