「大資本はなぜ私たちを恐れるのか」武建一著/旬報社
現在、日本の企業の内部留保は475兆円もある。竹中平蔵らが唱導する新自由主義によって企業の自由勝手度が強まると共に法人税の相次ぐ引き下げの結果である。しかし、何よりも労働組合の結集体である連合が、まったくと言っていいほど闘わなくなったためだろう。
こうした状況下では、ごく当たり前の労組の運動が目立ってしまい、警察国家となった現政権の集中砲火を浴びることになる。
「朝日新聞」までがドンなどと呼ぶ関西生コン支部委員長の武建一は、裁判所もグルとなった権力から目の敵にされ、何と641日にも及ぶ長期勾留をされた。労働法学会所属の78人の学者が「組合活動に対する信じがたい刑事弾圧を見過ごすことはできない」という声明を出したほどである。しかし、日本経営者団体連盟、いわゆる日経連の講師は講演会等で「法律など守っていたら組合をつぶすことはできない。われわれのバックには警察がついている」と公言していた。
1995年の阪神・淡路大震災で鉄筋コンクリートが無残に折れたシーンを記憶している人も多いだろう。水を混ぜて薄くしたシャブコンが使われていたからだった。「安かろう、悪かろう」のそうしたコンクリートを使わないために、2010年6月27日、労働組合と生コン業者が一緒になって総決起集会を開いた。大阪市内のホテルに近畿一円から集まった参加者が2300人。全国生コン協同組合近畿地区本部の久貝博司がこう挨拶した。
「ゼネコンによって生コンの価格が果てしなく下げられるなか、過当競争の行き着く先は原価割れだ。もはや自助努力ではどうにもならなくなった」
そして、「労使が心をひとつにして」出荷拒否のストライキに突入する。
これがゼネコンやセメントメーカーという大資本を震撼させ、武たちに対する無法極まりない弾圧が始まった。
彼らはヤクザを雇い、ヤクザによって武は拉致されたこともある。ガムテープでぐるぐる巻きにされ、車のトランクに放り込まれた。その時、武は「鳴海のようにしてやる」と言われたという。鳴海とは山口組組長の田岡一雄を銃撃して逆に報復のため殺された鳴海清のことである。この時は実行犯の組の幹部が武と同じ徳之島の出身だったため、奇跡的に助かった。いずれにせよ、いま、異常が普通になってしまっている。
★★★(選者・佐高信)