「電柱鳥類学」三上修氏
鳥はなぜ電線に止まるのか? なぜ感電しないのか?
電柱をこよなく愛し、スズメやカラスなど、都市に暮らす鳥を研究してきた鳥類学者が、鳥と電柱の関係を解き明かしたユニークな一冊を上梓した。
「電柱や電線に鳥が止まっている風景は日常のものとなっていますが、長い歴史の中で見ると、ほぼ一瞬の出来事なんです。電柱・電線が誕生したのは19世紀の中ごろで、日本の街中に張り巡らされるようになったのは昭和以降。150年くらいしか経っていません。その上、いずれ地中化によって消えてなくなるかもしれない。仮に50年後になくなるとしたら、電線に止まっている鳥が見られるのはたったの200年。見ておかないとソンなのです」
本書は電柱・電線の基礎知識から始まり、どんな鳥がなぜ電線に「止まる」のか。止まる行為から鳥と電柱の関係をひもといていく。
「スズメは電柱から離れた電線の中央付近に、カラスは一番上の電線の端に止まる傾向があることがわかりました。なぜ鳥が電柱に止まるかといえば、見晴らしがよく使えるなと思ったのもあるでしょうし、新しく生まれた個体にとっては、親や他の鳥が止まっているので、そういうものだと思っている面もあると思います」
本書には著者が撮影した「電線に止まる鳥たち」のカラー写真が掲載されている。モズ、キセキレイ、ツバメ……。姿勢も止まり方も鳥によって異なるが、いずれの止まり姿も凛として愛らしい。また著者は、鳥が電柱に作る「巣」にも注目する。
「例えばスズメが巣を作る場所は減っています。一昔前までは、住宅の多くは瓦屋根で、構造上、隙間があったんです。それがコンクリート製が増えて、隙間がなくなっていった。もうひとつ、街中の鳥は、森に比べて密度が高いこともあります。人間のゴミなど、餌の量が多いからですね。それもあって、巣作りに電柱を使い始めたのではないかと考えられます」
電柱が電線を支えるための「腕金」に開いた小さな隙間にまで、鳥は巣を作る。それを涙ぐましい努力と捉えるか、使えるものは何でも利用するたくましさと捉えるか。
「人間が自分たちのために造り出したものを、人間の意図とは全く異なる形で鳥が利用しているというのが面白いと思います。その最たるものが電柱ではないでしょうか。私は人間の活動が生き物に与える影響が面白いなと思って、この研究を続けているんですね」
しかし問題はある。電柱に作られた巣はときに停電を引き起こすからだ。本書には電力会社と鳥との闘いがつづられる。コウノトリの子育てを電力会社が見守る心温まるエピソードを紹介しながらも、著者は人と鳥の距離は「近寄りすぎず、かつ離れすぎず」がよいという立場をとる。
「誰かを悪者にしたくないんです。ひよっていると言われればその通りなのですが、鳥を敵にするとか、電力会社を敵にするとか、一般の人を敵にするとかでなく、みながある程度納得できる落としどころがないかと考えるようにしています」
そのために、ある程度の巣の撤去は検討すべきかもと説く一方で、市民にも協力を促し、共存への道を探っていく。
「お金のかからない人生の楽しみが増えますよ(笑い)。電柱や電線を見慣れると世の中の仕組みもわかるようになってきます。この家はケーブルテレビを引いてるんだなとか。上を向き、空を見ることにもなるので、気持ちも晴れると思います」
読後、外に出て、電柱を、電柱に止まる鳥たちを見たくなるだろう。
(岩波書店 1300円+税)
▽みかみ・おさむ 1974年、島根県松江市生まれ。2004年東北大学大学院博士課程修了。博士(理学)。鳥類学者。スズメをはじめとした、都市に生息する鳥類を対象に研究している。現在、北海道教育大学函館校教授。著書に「スズメ つかず・はなれず・二千年」「身近な鳥の生活図鑑」など。