「夫のLINEはなぜ不愉快なのか」山脇由貴子氏
夫側からすれば、どうにも納得しかねる本書のタイトル。必要な伝達事項を送っただけのLINEで、妻が不愉快になるなんて。いったい何が気に食わないのか。
「基本的に男性は、何かを伝える必要が生じたときにだけコミュニケーションをとる傾向があります。そしてその方法も、用件のみ。“今晩接待”“〇〇買っておいて”といった具合でしょう。しかし女性はそんなLINEに対し、“上から目線”“イラッとする”と感じてしまうわけです」
本書は、年間200組の家族が相談に訪れる家庭問題カウンセラーによる、夫婦関係のメンテ術を説いた一冊。夫婦間にすれ違いを生む要因となる、男性と女性のコミュニケーションスタイルの違いを明らかにしながら、関係改善のヒントを提示している。
「夕飯何がいい?」「何でもいいよ」。「どっちが似合うかな?」「どっちでもいいんじゃない」。妻とこのような会話をした覚えはないだろうか。夫としては正直な気持ちを言っただけかもしれないが、妻には「この人は私に関心がないのだ」と思わせてしまう。女性は会話をして共感を積み重ねていくことを求めるため、用件だけのLINEや「どっちでもいい」を嫌うのだと本書は解説している。
男女のコミュニケーションスタイルの違いは、成長する過程での母親との関係が大きな影響を与えていると著者。女性は幼い頃から母親に学校や友達関係の出来事を事細かく話し、母親も同性として娘の気持ちが分かるため共感を示しながらコミュニケーションを積み重ねていく。そのため女性は、夫ともたくさんの言葉を交わすこと、そして共感してくれることを求めるわけだ。では、男性はどうか。
「小学校の高学年にもなると、母親は異性である息子の気持ちに共感できなくなってきます。そして、“友だちとケンカした”と言われれば“ケンカなんかしちゃだめでしょ”と当たり前のことを言うだけ。息子は母親と会話して分かってもらうことを諦め、成長するにつれて“明日学校で○○が必要だから”など用件のみを伝えるスタイルになっていくんです」
母親よりも妻との方が頑張ってコミュニケーションを取っていると男性は思うかもしれない。しかし、母親との会話量は娘と息子では圧倒的に違う。そのため、夫は「うちの夫婦は会話ができている」と思っていても、妻は「夫は全然話をしてくれない」と不満をつのらせるのだと本書。結果、離婚まで考えていると妻に切り出され、慌てる夫が多いのだという。
「コロナ禍で、夫婦問題のカウンセリングは非常に増えています。コミュニケーションがない夫婦でも、毎日忙しく外で働いていた頃には不満も見て見ぬふりできた。しかしリモートワークになり旅行などもままならなくなったとき、夫婦間の問題と対峙せざるを得なくなったのでしょう」
本書では、今日からでもできる夫婦仲改善法も伝授。例えば1日3回、夫からLINEで“何でもないこと”を送る。「電車すごい混んでる」「ランチにカレー食べたよ」など簡単なものでいい。これだけで妻は「自分のことを気にしてくれている」と感じ、帰宅後はLINEの内容についてたわいもない会話が生まれる。
「これを妻のご機嫌取りなどと思わないでほしいですね。コミュニケーションが活発になれば家庭は円満になり、そこは夫にとっても帰りたい場所になるはずですから」
本書は、ぜひ夫婦で読むことをお勧めしたい。夫は妻のことを、そして妻は夫のことを今までより理解することに役立つだろう。
(文藝春秋 800円+税)
▽やまわき・ゆきこ 1969年、東京都生まれ。横浜市立大学心理学専攻。大学卒業後、東京都に心理職として入都。都内の児童相談所に心理の専門家として19年間勤務。現在は家族問題カウンセラーとして活動。「教室の悪魔」「告発 児童相談所が子供を殺す」などの著書がある。