「法医昆虫学捜査官」川瀬七緒著
法医昆虫学(法昆虫学)とは、死体に群がるウジの成育状況によって死亡時刻を推定したり、死体に付着する昆虫の種類から殺害場所を特定する法医学の一分野だ。欧米では早くから法医学に応用されていたが、日本ではまだ極めてマイナーだ。この珍しい分野を正面から取り上げているのが本書。
【あらすじ】東京・板橋近辺ではここ1週間のうちに4件の放火事件が起きていた。いずれもボヤ程度であったが、今度の放火ではアパートが全焼し32歳の女性が焼死した。
一酸化炭素中毒死と思われたが、解剖してみると腎臓の脇にソフトボール大の球体があり、メスで開くと中からウジが次々に飛び出してきた。解剖に立ち会っていた岩楯警部補は驚くとともに、死んだ後しばらく死体が放置され、そこにウジが巣くったに違いないと気づく。さらに詳しく調べると、甲状軟骨に絞殺の痕が認められた。
そこへ理事官から全国初の試みとして法医昆虫学者を捜査陣に加えることを伝えられる。初めて聞くその名に岩楯は半信半疑ながら、くだんの学者に会いに行く。現れたのはパーカにジーンズ姿の若い女の子。一瞬目を疑ったが、彼女こそ法医昆虫学者の赤堀涼子准教授、36歳だった。
最初こそ頼りなく思ったものの、話しているうちにその学識の深さと意志の強さに感心させられる。赤堀は遺体から発見されたウジの一部が異常な成長を遂げていて、そこにコカインが混入していることを突き止める。一体どこからコカインが。この謎を解くべく赤堀は単身信州の山中へ向かうが、そこには――。
【読みどころ】法医昆虫学がどのように犯罪を解明していくのかが昆虫の生態とともに詳しく語られ、目を開かされる。現在シリーズは全7作で、本書は第1作。 <石>
(講談社 847円)