「法医昆虫学者の事件簿」 マディソン・リー・ゴフ著 垂水雄二訳

公開日: 更新日:

 死体に群がるウジなどの虫を調べて死亡時刻や死後の経過時間を特定する法医昆虫学が、実際の捜査や裁判に活用されるようになったのは割と近年のことだ。本書の著者はFBIで法医昆虫学の講義をしているアメリカでの第一人者。著者がこの世界に入った1980年代の初めは、まだ法医昆虫学が検出した証拠は懐疑の目で見られることが多く、90年代半ばになってようやく評価が定まったという。

 本書は著者が関わったさまざまな事件を取り上げ、いかなる過程を踏んで犯行時期を特定していくのかが具体的に書かれている。ノンフィクションであるが、推理を駆使する手際は、まさにミステリー小説で、現に本書の影響を受けたミステリーが書かれている。

【概要】1996年2月25日、カリフォルニア州北部の小さな町で11歳の少女が行方不明になったと両親から届けられた。最後に少女の姿が目撃されてから約1カ月後、家の近くの陶器窯の中から少女の遺体が発見される。

 著者は付着していたウジを特定し、ハエが遺体に卵を産みつけたのは3月14~15日と鑑定。さらに当時の気温データを分析した結果、それ以前は気温が低くハエの活動は制限されており、少女が死んですぐに窯に入れられたと結論。相手は昆虫という生物なので、環境が変われば、その行動も変わってくる。たとえば焼死体や木に吊るされた状態の場合、通常とどう異なるのか。それらを検証すべく著者はブタなどを用いて詳細な実験を行い、新たなデータを獲得していく。

【読みどころ】著者らの綿密な実証研究により、いまやアメリカでは法医昆虫学は法医学の一分野として重きを置かれるようになったという。日本では未開拓の分野だが、今後の発展を期待したい。 <石>

(草思社 990円)

【連載】文庫で読む 医療小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    不倫報道の福原愛 緩さとモテぶりは現役時から評判だった

  2. 2

    小泉進次郎氏が自民総裁選に出馬意向も評価真っ二つ…《こいつだけはダメ》が噴出するワケ

  3. 3

    石川佳純がパリ五輪キャスター“独り勝ち”の裏で福原愛が姿消す…マイナスイメージすっかり定着

  4. 4

    「海のはじまり」は地に落ちたフジ月9の象徴か…TVコラムニストが薦める意外な視聴者層

  5. 5

    「建築界のノーベル賞」受賞の権威が大阪万博をバッサリ!“350億円リング”「犯罪だと思う」

  1. 6

    男子バレー髙橋藍の胸から消えた「ネックレス」の謎…1次Lから着用も、イタリア戦では未装着

  2. 7

    石川佳純の争奪戦からフジテレビが脱落情報!五輪キャスター起用でアドバンテージあるはずが…

  3. 8

    総裁選に出馬表明の小林鷹之氏やたら強調も…育った家庭は全然「普通」じゃなかった

  4. 9

    柔道ウルフ・アロンが“弟分”斉藤立を語る「仏リネール選手はタツルに持たれることを恐れていた」

  5. 10

    男子バレーに危険な兆候…“金メダル級”人気はパリ五輪がピーク? 28年ロス大会へ不安山積