「ヒポクラテスの誓い」中山七里著
このところ、「アンナチュラル」「サイン」「監察医 朝顔」など、法医学を扱ったテレビドラマが目立つ。とはいえ、日本では死因が明らかでない死者の数が年間14万人いるが、それに対して司法解剖、行政解剖を合わせても1万件、法医学者(解剖学者)の数も全国で約150人で、解剖率も医者の数も先進諸国に比して圧倒的に少なく、法医学志望の医学生も多くないのが実情だ。
【あらすじ】栂野真琴は浦和医大の臨床研修医で内科志望だが、研修医長の教授の命令で法医学教室で研修を受けることに。真琴を迎えたのは准教授のキャシー・ペンドルトン。コロンビア医大で法医学を専攻していたが、法医学教室の光崎藤次郎教授の論文を読んで感銘を受け、来日したという変わり種。光崎は独善的で彼の辞書には忖度という言葉などなく己の信念を決して曲げない。しかしその知識と解剖技術は天才的で、警察からの信頼も厚い。
埼玉県警の捜査1課の古手川が持ち込んだのは、検視官の見立てでは酔っぱらって凍死したものと思われる遺体。明らかに事件性がないかに思えるのだが、古手川の上司から光崎に見てもらえと言われやって来たのだ。光崎はすぐさま解剖を始め、咽頭部に付着したあるものを発見する……。その後も古手川を通じて事件性がないかに思える遺体を強引に解剖していく光崎に真琴は不審を抱くのだが、その背後には思わぬ事実が隠されていた……。
【読みどころ】当初、医者の本分は生きている患者を救うことで、死者を扱うのは二義的なことにすぎないと思っていた真琴だが、解剖を通してその死に隠された真実をあぶり出していく光崎や古手川に接しているうちに法医学の魅力にひかれていく。現在シリーズ3作が刊行。 <石>
(祥伝社670円+税)