笑えば新型コロナ退散!?「ユーモア脱力本特集」
「全日本失敗写真選手権」「全日本失敗写真選手権」製作委員会編
終息どころか変異株の猛威でますます深刻さを増す新型コロナウイルス。今年のGWも旅行を楽しむことは難しそうだ。だったらいっそ家で腰を落ち着け、読書を楽しんではいかが。元気が出ないコロナ禍の空気を蹴散らす、ユーモア・脱力系本6冊を紹介しよう。
せっかく写真を撮っても、露出やシャッタースピードのミスでうまく撮影できなかったら削除してしまうだろう。しかし、頭をひねってタイトルを付けてみると、ひと笑いできる面白写真に変身する。本書では、SNSに投稿された「#全日本失敗写真」を一挙紹介。撮影者が1ミリも意図せず撮れてしまった、爆笑必至の写真たちを紹介している。
スマホのカメラについている、180度撮影可能なパノラマ機能。しかし、この撮影中に被写体が動いてしまうとどうなるか。それが、「アさて、アさて、さては南京玉すだれ」のタイトルがついた子供の写真。顔の部分がニョロリと伸びるように重なって写り、まるで顔の部分が玉すだれになったようなユニーク写真に仕上がっている。
ほかにも、動いてしまった残像で金色の目が飛び出しているように見える黒猫の「全日本目ヂカラ選手権で堂々の優勝」、手持ち花火をしている瞬間を真正面から撮ったら指先から火が噴き出しているように写った「爪に火を点(とも)すような暮らし」など、ユニークな写真のオンパレードだ。 (ワニ・プラス 1100円)
「今日も言い訳しながら生きてます」ハ・ワン文・イラスト、岡崎暢子訳
「言い訳」と聞くと悪いことのようなイメージだが、実は悩み多き現実社会で、心折れることなく生きていくための最後のとりでともなる。本書は、心の力を抜くことで自分の人生を肯定する生き方が見つかる、“言い訳”エッセーだ。
「内向的」は「外向的」より劣ると思われがちだ。しかし、内向的な人間は自分の内面に集中できる。刺激を外に求めることなく楽しむ方法を知っているため、むしろ外向的な人よりも幸せに生きる才能にたけているとも言える。つまり内向的な方がコスパよく幸せになれると本書は言い訳する。
また、この幸せについても大きさではなく、頻度が重要と説く。一日中必死で働いた夜の缶ビール1本が幸せ、などというと「小さいねぇ」と蔑む声が聞こえてきそうだ。しかし、手に入りにくい大きな幸せよりも、日常の中に積み重なる小さな幸せこそが、大きな目標に向かうための活力になる。そして、万が一失敗したときのエアバッグにもなる。
他者との比較から生じる劣等感を脱ぎ捨て心地よく生きるための考え方が分かってくる。 (ダイヤモンド社 1595円)
「無心セラピー」辛酸なめ子著
ストレスがたまってテンションが上がらず、心がダークサイドに落ち込む……。こんなときには、心をいたわるあれこれをやってみて、自分の機嫌をとるといいと著者。
例えば、「贈答ヒーリング」。これは、人にちょっとしたものを差し上げることで、ひとときの充実感を得ることだ。会社の部署のメンバーに缶コーヒーの差し入れでもいい。妻への手土産にクッキーでもいい。ただし、恩着せがましくするのは厳禁。手土産ハラスメント(てみハラ)と思われない程度に贈答して感謝され、心の安定を図ってみたい。
お金をかけずに心を安定させたいなら、SNS離れをするのがいい。著者は、空海の書を眺めてこれを思い立ったという。命がけで唐に渡り密教の経典を書き写した空海と比べて、現代人ときたら手軽に写真撮影してSNSにアップする。これで承認欲求を満たしたいとは何とずうずうしい。こんな姑息なことをやめるだけでも気持ちが洗われるというものだ。
クスリとさせられつつ今日からでも始めたい、心のケア方法が満載だ。 (双葉社 1760円)
「鳴かずのカッコウ」手嶋龍一著
公安調査官が主人公のインテリジェンス(諜報)小説。こう聞くと、キレ者の主人公が巨悪と戦う手に汗握る……と考えてしまうが、本書の主人公はマンガ好きのオタク青年というから脱力ものだ。
壮太が籍を置く神戸公安調査事務所は所長を含めて総勢28人とさして大きな所帯ではない。右翼団体やカルト系組織、左翼系の過激派を主な調査対象としているが、壮太が所属する国際テロ班は、“北”一筋の守旧派からはさして重要な部署とは見なされていない。
当の壮太も、インテリジェンスオフィサーに憧れてこの職場を選んだわけではない。所属していた漫画研究会のOBから、景気に左右されない国家公務員を勧められただけの話で、初めから上級職も望んでいなかった。
そんなイマドキ青年の壮太だが、一度目にした光景を細部まで覚えている映像記憶に秀でていた。そして、ある日のジョギング中に見かけた看板から、中国・北朝鮮・ウクライナが入り乱れる国際諜報戦線へと巻き込まれていく。
外交ジャーナリストである著者の、11年ぶりの新作だ。 (小学館 1870円)
「しつこくわるい食べもの」千早茜著
気鋭の小説家が放つ「食」のエッセー。2018年に刊行した「わるい食べもの」に続き、食いしん坊の著者の食への愛が“しつこく”つづられている。
映画にはさまざまな食べ物が登場するが、プロテインなどを摂取して健康に気を使っていそうな正義のヒーローよりも、悪党の食卓の方が格段に魅力的だと著者は力説する。とくにクギ付けとなったのは、子供の頃に父と見た「ゴッドファーザー」だ。
イタリア系移民のマフィア映画なので、パスタが出てくるのは不思議ではないが、そのパスタがスパゲティ・ミートボール! ディズニーアニメなどにも登場して子供の憧れの食べ物だが、それを、これから人を殺したりする悪党たちがおいしそうに食べるシーンにキュンときてしまうのだという。
悪党飯の最たるものが、「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクター博士のそれ。彼は美食家であり料理の腕は超一流。人の脳を生きたまま焦がしバターソースで調理したりする。知り得ることのない悪党の食卓。著者は禁断の果実のように憧れてしまうとつづっている。 (集英社 1540円)
「なぜあの人のジョークは面白いのか?」ジョナサン・シルバータウン著、水谷淳訳
「ゆうべ、玄関のところでかみさんと出くわした。セクシーなネグリジェを着てたんだ。ただし、かみさんは帰ってきたところだったんだがね」
これは、アメリカのコメディアン、ロドニー・デンジャーフィールドのジョークだ。ある研究では、自虐的なジョークを言うのは芽の出ないコメディアンという説がある。しかし、自虐的なユーモアはダメ人間を演じないとウケを取るのが難しい、高度なジョークなのだ。
本書では、世界各国から集めた100以上の傑作ジョークを紹介。エディンバラ大学の進化生物学研究所教授である著者が、人間の進化と笑いの本質について解説している。
「初夜の翌朝に花嫁が『あなたすごく下手ね』と言った。すると花婿はこう言い返した。『30秒で分かるわけないだろう』」
このジョークは、卵子よりも精子の方が手軽に作れて数も多く、また子を作るためには女性の方が多くの努力を必要とするという、進化による男女の性差があってこそクスリと笑えると本書。ユーモアの本質を知り、ジョークを洗練させたい人の必読書だ。 (東洋経済新報社 1760円)